『MEN 同じ顔の男たち』現在まで続く原罪。鑑賞後は鏡を覗かずにはいられない、不快指数MAXホラー。

2022.12.07

◆今週公開の注目作

『MEN 同じ顔の男たち』

本作はもはやお馴染み、A24製作の新作ホラーだ。監督のアレックス・ガーランドは『エクス・マキナ』でAIを、『アナイアレイション -全滅領域-』で突然変異を恐怖の対象として描いてきた。それらに続く長編3作目であるこの『MEN 同じ顔の男たち』では「男性」をフィーチャーしている。

「MEN」…男たち。非常にシンプルなタイトルだ。プロット自体もシンプルなのだが、全編に嫌な、不気味な雰囲気が漂っている。始まっていきなり、主人公のハーパーは夫の飛び降り自殺を目撃してしまう。目と目が合っただけで恋に落ちる、ということがある。2人もはじめはそうだったのかもしれないが、ハーパーは落ちていく夫と目と目が合っただけで永遠の呪いを受けてしまう。落ち込んだハーパーが心を癒そうと向かった田舎の自然は非常に美しいのだが、そこで会ったのは気色が悪く、無遠慮で、無神経な、男、男、男たち。もちろん服装や年齢、職業は別々。しかし、面でも付けたように皆同じ顔をしているのだ。そして最悪の休暇が始まる。

ハーパーは田舎についてすぐリンゴの木を見つけ、ひとつを手に取りかじる。ご存じ(実は俗説だが)、リンゴは“禁断の果実”。アダムとイブの話だ。リンゴ、アダムと来れば思い浮かぶのは「アダムズ・アップル(喉仏)」という言葉。これは、リンゴを食べているところを神に見つかって驚いたアダムが、飲み込もうとして喉に詰まらせたという逸話に由来するものだ。木に生った無数の実は、後にハーパーの前に現れる男たちを暗示しているように見える。アダムがリンゴを食べたのは、正確に言えば蛇にそそのかされ先に食べたイブに手渡されたからだ。かくして2人はエデンの園を追放され、全人類は原罪を背負うことになった。自身も禁忌を破っておきながら、アダムは神に「イブが勧めてきたので」と言い訳する。本作のハーパーも、事あるごとに男たちから責められる。

「MEN」、または「MAN」は男性を表すと同時に、人間をも意味する。「ADAM」もまた人間を意味する。「WOMAN」の語源は「WIFMANN(WIFEMAN)」、「女の人」だ。ハーパーが夫の死後も思わず名乗ってしまう「夫人」は、「夫を扶(たす)ける人」から来ている。それらと関係するかは分からないが、本作ではこれでもかというほど“トキシック(有毒)な男性性”が描かれている。女は海、男は膿？　これは男性にとってある意味原罪のようなものであり、ラストにはそれを具現化したようなモノが登場する。本作の宣伝でキャッチコピー的に使われている「永遠のトラウマになる」という文言にふさわしく、ひどく醜悪な姿だ。

本作にはそれ意外にも薄気味悪いイメージが度々登場する。トンネルの向こうの人影、多産・豊穣を象徴する彫刻と言われる男性型の「グリーンマン」と女性型の「シーラ・ナ・ギグ」…。ライティングによって表情を変える像が意味するのは、祈りか呪いか。男たちはシーラ・ナ・ギグの“トンネル”からやって来るのだろうか？　「永遠のトラウマになる」は以前、別のA24ホラーでも使われたフレーズだ。それは『ヘレディタリー/継承』。…リンゴの芯は残すべきと言われる。だが実際、芯を食べることに問題はない。問題なのは種を食べることだ。リンゴの種は体内で猛毒のシアン化物を発生させる。あなたが“アダム”なら目を背けず、自戒しなければならない。体内で芽吹いた種によって、毒を引き継ぐ実を生らすリンゴの木となってしまわぬように…。

【ストーリー】
夫の死を目の前で目撃してしまったハーパーは心の傷を癒すため、イギリスの田舎街を訪れる。そこで待っていたのは豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリー。ハーパーが街へ出かけると少年、牧師、そして警察官など出会う男たちが管理人のジェフリーと全く同じ顔であることに気づく。街に住む同じ顔の男たち、廃トンネルからついてくる謎の影、木から大量に落ちるりんご、そしてフラッシュバックする夫の死。不穏な出来事が連鎖し、“得体の知れない恐怖”が徐々に正体を現し始める――。

【キャスト】
ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ、ゲイル・ランキン、サラ・トゥーミィ

【スタッフ】
監督・脚本：アレックス・ガーランド
製作：アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ
音楽：ジェフ・バーロウ、ベン・ソールズベリー

公式サイト：https://happinet-phantom.com/men/
Twitter：＠MEN_MOVIE_JP #同じ顔の男たち

屋我平一朗

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