『シャドウ・イン・クラウド』／敵は「ムカつく男たち」に「グレムリン」に「日本軍」!?　“ヒットガール”クロエ・グレース・モレッツが根性で全員黙らせる！

2022.03.30

◆今週公開の注目作

『シャドウ・イン・クラウド』

「シャドウ・イン・クラウド(雲の中の影)」と聞くと、2種類のモンスターが思い出される。その内ひとつは実在する。「ブロッケンの妖怪」だ。主に山や飛行機内にいて背後から日光が差していると、前方の雲に自分や機体の影が映り、さらにその周りに虹のような色の光の輪ができることがある。これが、魔女が集まって宴を催すと言い伝えられるドイツのブロッケン山にその名が由来するブロッケン現象だ。そしてもう一方は実在しない怪物…いや、“実在した”というべきだろうか。「グレムリン」がそれである。

グレムリンと言えば、同名のジョー・ダンテ監督の映画が有名だ。主人公家族は不思議な可愛い生き物モグワイをペットにするが、譲り受けた際にした約束を破ったためモグワイは凶暴なグレムリンに豹変してしまう。グレムリンの存在は実際、第一次世界大戦時にはイギリス空軍の間で語られていたと言われている。機械のトラブルが起こった際、その原因とされたのだ。ヤツらは第二次世界大戦中も欧米の兵士たちの頭を悩ませ、それが本作の発想元になっている(オムニバス映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』で、『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラーが監督した一編『2万フィートの戦慄』にも同様の設定でグレムリンが登場し、約6000m上空で主人公と一騎打ちする)。

本作の部隊も第二次世界大戦。クロエ・グレース・モレッツ演じるモードは、ある最高機密を運ぶためB－17に乗り込む。男ばかりの空間で彼女は常に失礼な言動にさらされ続けるが、問題はそれだけではなかった。飛行中、モードは“雲の中の影”を発見し、他の兵士に伝えるもなかなか信じてもらえない。機体は壊されるし、敵である日本軍の零戦も襲ってくる(ちなみに、グレムリンは当時勢いを増していた日本や黄色人種の脅威の象徴とする説もある)。三重のピンチである。B－17は「フライング・フォートレス(空飛ぶ要塞)」とも呼ばれるだけあり、エンジンが止まったり穴が空いても飛行できるような頑丈さで知られているが、この機の名前は「フールズ・エランド(無駄足)」。果たしてモードは無事目的を果たせるのか？

ロザンヌ・リャン監督自身が言っているように、本作はジェームズ・キャメロン監督の『エイリアン２』に大きく影響を受けている。同作では、主人公のシガニー・ウィーバーがエイリアンを相手にタフな活躍を見せるが、クロエは12歳の時の『キック・アス』ですでに、放送禁止用語を連発しながら大の大人をバッタバッタとなぎ倒す、ヒットマンならぬヒットガールを演じていた。本作でもその負けん気の強さは遺憾なく発揮されており、なんと劇中にはグレムリンとの肉弾戦(!?)まで用意されている。

女性の強さを描く作品は特に最近増えてきたが、本作は成り立ちからしてもそういった部分がある。元の脚本は『ブルース・ブラザーズ』などで知られる巨匠ジョン・ランディスの息子マックス・ランディスが手がけたが、彼は複数のセクハラを告発されていた。結果的にクレジットに名は残ったものの、監督は彼と完全に距離をとり、脚本を幾度もリライトしながら映画制作を進めたという。出来上がったものはジャンルごちゃ混ぜの、まさに最高のB級スリラーで、トロント国際映画祭のジャンル映画部門ミッドナイト・マッドネスで観客賞まで受賞してしまった。『007』シリーズでは従来のボンドガールがボンドウーマンと改められたが、これからもクロエにはどんどんB級映画に出てもらって、ヒットガールならぬ“ヒットウーマン”なども演じてほしいものだ。

【ストーリー】
第2次世界大戦下。連合国空軍の女性大尉モード・ギャレットが、フールズ・エランド号と命名されたB-17爆撃機に乗り込んだ。上官からの密命を帯びたモードの任務は、極秘の最高機密をニュージーランドからサモアへ運ぶこと。しかし、全て男性の乗組員７名は女性が搭乗することに反発し、彼女を狭苦しい砲台の銃座に押し込める。雷鳴轟く悪天候の中、高度2500メートルに達したとき、モードは“大空の魔物”グレムリンと遭遇する。そして、ある重大な秘密を隠し持つ彼女が、この爆撃機に乗った本当の理由とは……。

【キャスト】
クロエ・グレース・モレッツ、ニック・ロビンソン、ビューラ・コアレ、テイラー・ジョン・スミス　ほか

【スタッフ】
監督：ロザンヌ・リャン
脚本：マット・リーヴスマットソン・トムリン
原題：SHADOW IN THE CLOUD

配給:カルチュア・パブリッシャーズ
© Ātārangi Kiriata Limited 2020

公式サイト：https://shadow-in-cloud.com/

2022年4月1日（金）全国公開

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屋我平一朗

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