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『秋が来るとき』 生い茂った葉が落ちて心に冷たい風が吹く。けれど、そんな時こそ落ち葉で暖を。

◆今週公開の注目作

『秋が来るとき』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

四季の中で、あなたは一番どの季節が好きだろうか。筆者は涼しい方が好みなので、夏の暑さが去りひんやりとした風が吹き始めるときを毎年楽しみにしている。しかし、人生を四季に例えた場合、秋はすでに人生のピークを過ぎ後半に差しかかったところだ。もしかしたら、冬という名の死を目前にした、老いの苦しさが目立つ期間になるかもしれない。本作『秋が来るとき』は季節的に秋を舞台にしているが、主人公ミシェルは80歳なので、冬の眠りにつくまでの間残りの人生を波風立てず穏やかに家族と過ごしたいと考えている。

ところが、休暇に食事に誘った娘のヴァレリーとは昔から変わらず不仲のままであり、孫のルカも満足に可愛がらせてもらえない。どうにか距離を縮めようとしてキノコ料理を用意するが、皮肉にもそのせいで溝がさらに深まってしまう。もうそれほど時間が残されていないミシェルは、果たして幸せに人生を終えられるのだろうか?

人生を綺麗に畳もうとしている人物の話であるため、感動のヒューマンドラマになりそうなものだが、そこはフランスの巨匠フランソワ・オゾンが手掛けただけあって一筋縄ではいかない作りになっている。ミシェルには何か後ろめたい秘密があると最初のシーンから匂わされており、どうやらその影が彼女の幸福を阻んでいるようだ。画面は美しい紅葉やミシェルの手入れする庭、心が癒やされる田舎の様子を映し出していても、常に少し不穏さが漂う。オゾンらしいミステリー要素を含みつつ、物語は光と影を交えながら展開していく。

英語で秋を表す単語はご存じのようにふたつある。「Fall」と「Autumn」だ。前者は葉が落ちる(fall)という側面が押し出された言い方で、終わりを感じさせる。ミシェルがこれまでに得たものが失われ、全てをなくして死に向かうのを思わせる。だが「Autumn」の方は、ラテン語で収穫期を意味する言葉に由来する。フランス語の秋「Automne」も語源は同じで、ミシェルが周りに振りまく彼女なりの善意が実っていくのを予感させる。少々毒のあるストーリーだがオゾンが優しい目線を向けているのは、ミシェルをはじめとした暗い過去を持つキャラクターたちだ。例え罪を犯したとしても、その罪で人生が押し潰されるのを良しとはしていない。

決して後味が悪くはないが、単純に“いい話”とも言い切れないビターな味わいが残る大人な映画だ。見終わっても解決しない謎があり、誰かとその解釈について語りたくなる。そこで話が合うような人と“秋”を過ごせるのならば、それこそが幸福なのかもしれない。

【ストーリー】
80歳のミシェル。パリでの生活を終え、人生の秋から冬に変わる時期を自然豊かなブルゴーニュの田舎で一人暮らしをしている。秋の休暇を利用して訪れた娘と孫に彼女が振る舞ったキノコ料理を引き金に、それぞれの過去が浮き彫りになっていく。人生の最後を豊かに過ごすために、ミシェルはある秘密を守り抜く決意をする――。

【キャスト】
エレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコ、リュディヴィーヌ・サニエ、ピエール・ロタン 他

【スタッフ】
監督:フランソワ・オゾン
脚本:フランソワ・オゾン、フィリップ・ピアッツォ

公式サイト:https://longride.jp/lineup/akikuru/

 

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