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【今週公開の注目作】『スカーフェイス【4K版】』 この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば。

◆今週公開の注目作

『スカーフェイス【4K版】』
2026年6月5日(金)より、シネマート新宿ほか順次期間限定公開

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

85歳という年齢もあって今ではあまり名を聞かなくなってしまったが、映画好きを名乗るのであれば見ておきたいのがブライアン・デ・パルマ監督の作品だろう。癖が強い上に作品によって評価が乱高下するのが彼の特徴で、そういう意味ではM・ナイト・シャマラン監督にも似ているかも知れない。『サイコ』で有名なアルフレッド・ヒッチコック監督を敬愛し、残酷描写や異常な精神状態をよく描くので、ホラー耐性がない方には厳しい鑑賞体験になることもあるだろう。しかし、きっちり名作も残している巨匠であるのは間違いない。『キャリー』に『アンタッチャブル』、そしてあの『ミッション:インポッシブル』の1作目も実はデ・パルマ作品だというのは忘れたくないところだ(後の特大人気シリーズに果たして本当に必要だったのか分からない、上昇が止まらないエレベーターの上部に乗ったイーサン・ハントの仲間が、謎の金属片に顔面を貫かれるショックシーンの存在が、デ・パルマ節を何よりも雄弁に語っている)。また知名度では劣るが、ジョン・トラヴォルタ主演の『ミッドナイトクロス』も隠れた傑作として付け加えておきたい。

今回4K版が上映されるギャング映画『スカーフェイス』も、デ・パルマ黄金期に作られたうちの一作だ。アル・パチーノ演じる、顔に大きな傷跡を残した“スカーフェイス”トニー・モンタナはキューバからアメリカに逃れてきた難民で、始めはアメリカ人たちに見下されている。人々でぎゅうぎゅうの難民キャンプに押し込められながら、アメリカンドリームを夢見た彼が選んだのは血塗られた道だった。ギャングの手下として順調に星条旗に赤いラインを引いていくトニーは、持ち前の勘の鋭さと胆力で裏社会をのし上がっていくが……。

本作はクラシック映画『暗黒街の顔役』のリメイクながら、やはり隠しきれないデ・パルマらしさに溢れている(ちなみに、『暗黒街の顔役』に出演したオズグッド・パーキンスは、『サイコ』で主演のアンソニー・パーキンスの父親。つまりはホラー監督オズグッド・パーキンスの同名の祖父である)。トニーが麻薬取引で罠にはめられた時はよりにもよってチェーンソーで殺されそうになるし、生き別れとなっていた妹ジーナへの愛情は家族としてのそれを超えているようにも感じられる。明らかに異常な描写だ。またトニーは難民という弱者的な立場にありながら、人殺しを全く厭わない狂気的な人物でもある。一筋縄ではいかないキャラクター像を提示した挙句、何と本作は3時間弱もの上映時間があるのだが、さすが巨匠、長さを感じさせない作りになっている。

 

本作で描かれるのは俗悪にして孤高の悪党、トニー・モンタナの栄華だけではない。「栄華」に対してはどうしても「没落」がセットになる。作りとしては、成り上がり貴族となるも凋落していく主人公を描いたスタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』にも似ている(またちなみに、同作のヒロインを演じたマリサ・ベレンソンの妹ベリーはアンソニー・パーキンスの妻だった)。ボスの愛人と人生逆転のチャンスを得たトニーが見上げた「世界は君のもの」と書かれた飛行船は、望月の歌を詠んだ藤原道長のように、トニーの目にも一切の欠けのない満月に映ったかも知れない。

しかし、満月というものは次の日からだんだんと欠けていく。どん底からは上がるしかないように、頂点からは落ちるしかない。望月の歌は、従来は上記のように解釈されるのが当たり前だったが、詠まれた日が満月の次の日だった可能性があるらしく、今では栄華の儚さを含意しているという説や、「欠けた月と違い我ら家族・仲間にとって今日は完璧な世(夜)だ」と歌ったとする説もあるようだ。“世界”を手に入れてからのトニーの変化を見ると、もしかしたら違った未来もあったのではないかと思いを巡らせてしまう。端から見れば、縦横無尽に宙を駆け巡っていた鉄砲玉が壁にぶつかって止まった、ただそれだけのことだが、本作は血みどろの見た目に反して不思議な詩情も感じさせる。本国公開時は意外にもゴールデンラズベリー賞の最低監督賞にもノミネートされた“傷跡”のある本作、今月で上映権が切れ日本での最後の上映となる可能性もあるので、すでに鑑賞済みの方も未見の方もこのチャンスを逃す手はない。月が欠けていようとも、アル・パチーノという紛うことなき一等星がこれ以上なく光り輝いているのは否定しようもないのだから。

【ストーリー】
1980年、避難民に紛れ多くの犯罪者がキューバから米国へと流れた。その一人で、反カストロ主義者として国から追放され、フロリダ州マイアミへ流れてきたトニー・モンタナ(アル・パチーノ)は、難民収容所での殺しを請け負うこととなり、マフィアの一員となる。最初の仕事でマイアミの大物ボス=フランク(ロバート・ロジア)の信頼を得たトニーは、麻薬王と取引の交渉役に抜擢されるなど、アメリカの裏社会での地位を築いていく。間もなく頭角を現し始めたトニーは、自らのおごりと底なしの欲により、フランクの女をも奪おうと接触を繰り返すようになる。その結果フランクの怒りを買い、彼は破滅へと追い込まれていくのだった…。

監督:ブライアン・デ・パルマ
スクリーンプレイ:オリバー・ストーン
出演:アル・パチーノ、ミシェル・ファイファー、スティーヴン・バウアー、ロバート・ロジア、ミリアム・コロン
1983年/アメリカ/170分/R15+
配給:シンカ
公式サイト:https://synca.jp/film/980/
© 2026, 1983 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC.

 

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