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『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』消化できなくば、吐き出すべし。もしも消化できたなら、おめでとう、あなたはもう同じ人間ではない。

◆今週公開の注目作

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

映画界において、親子ともに監督として活躍している例は珍しくないものの、現在のホラー界においては彼らくらいしか思い当たらない。デヴィッドとブランドン・クローネンバーグの親子である。デヴィッド・クローネンバーグと言えば、何となく穏やかで好印象な国カナダの出身ながら、かなりのド変態監督だ(『CUBE』で有名なヴィンチェンゾ・ナタリもカナダ人なのだが)。とにかく彼は、『ザ・フライ』ではテレポーテーションマシンを使ったら遺伝子レベルでハエと融合してしまった科学者を、『クラッシュ』では自動車事故に性的興奮を覚えるカップルを描き、他にも非常に気持ち悪い(褒めている)映画ばかり撮ってきた。藤子・F・不二雄は自身の作品のテイストを「SF(サイエンス・フィクション)」ではなく「SF(すこしふしぎ)」と表現したが、クローネンバーグの作り出す映像は「SF(すごくふゆかい)」と呼ぶべきだろう。

息子のブランドンもまた、クローネンバーグ印の作品ばかり発表している。1作目『アンチヴァイラル』ではセレブが感染したウィルスを注射してもらう医療サービスを、2作目『ポゼッサー』では他人の脳に侵入できる機械を使ってリモート殺人を犯す殺し屋を、最新作の『Infinity Pool(原題)』では大金を積んで作った自分のクローンを代わりに殺せば死刑を回避できる国を描いた。未来的な犯罪ばかりがフィーチャーされているが、父デヴィッドは約50年前にすでに『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』という作品を撮っている。最新作の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』とタイトルがほとんど同じ(原題は『Crimes of the Future』で全く同じ)だがリメイクや続編ではない。それでも、扱われているのは、確かに新たな“未来犯罪”だ。

SF映画では、現代の人間より遥かに進化した存在は、肉体を失った意識体として描写されることが少なくない。『2001年宇宙の旅』や『インターステラー』でもそうだ。ところがそこはクローネンバーグ、本作ではむしろ肉体を増やす方向に舵を切った。テクノロジーを人間の能力の延長と捉えている彼にとっては、ごく自然な選択なのだろう。大量のデータを記憶できるPCのハードディスクは、記憶の拡張装置…体の外にあるもうひとつの脳のようなものだ。本作の主人公ソール・テンサーは、次々と体に新たな臓器が生まれる“加速進化症候群”を患っており(?)、それを切除するショーで人気のアーティスト(??)。劇中の人類は体にとって警報の役割を担っている痛みすら克服したため、肉体の変容への恐怖ももはやなく、政府はこの“進化”に批判的な目を向けている…。

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気味が悪い話に聞こえるだろう。だが、実際のところ人類は環境に適応しているだけなのだ。現代に生きる我々の体にはマイクロプラスチック(5mm以下のプラスチック)が蓄積されており、程度は未知数ながら悪影響が予想されている。そして本作には、プラスチックを食べられる人間も登場する。悪夢のようながら、夢のような話ではないか? ところで、最初の状態から全てのパーツが交換された船は元の船と同じと言えるかという哲学的な問いがある(「テセウスの船」)が、人体の細胞のほとんども生きているうちに入れ替わってしまう。あなたは、以前のあなたと同じと言えるだろうか? プラスチックなど、新たな物質が体を構成するようになったらどうだろうか?

もし意識の連続性があなたという人間を規定すると考えているのなら、注意したほうが良い。本作は、あなたをこれまでのあなたから少し変えてしまうだろう。だがそれで良いのだ。それこそが適応、進化なのだ。観客を変容させてしまう、デヴィッド・クローネンバーグによるこの罪深い行為は、少なくとも今の時点では犯罪ではない。未来では犯罪として扱われることになるとしても、今ではない。決して。今のうちに、この“犯罪”を被害者として楽しんでおくのだ。この倒錯的な喜びに身を包まれたなら、あなたの痛みも消え去るだろう。

【ストーリー】
カラダから生み出されるのは、希望か? 罪か?そう遠くない未来。人工的な環境に適応するよう進化し続けた人類は、生物学的構造の変容を遂げ、痛みの感覚も消えた。“加速進化症候群”のアーティスト・ソールが体内に生み出す新たな臓器に、パートナーのカプリースがタトゥーを施し摘出するショーは、チケットが完売するほど人気を呼んでいた。しかし政府は、人類の誤った進化と暴走を監視するため“臓器登録所”を設立。特にソールには強い関心を持っていた。そんな彼のもとに、生前プラスチックを食べていたという遺体が持ち込まれる…。

監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワート
配給:クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES 
提供:東北新社 クロックワークス
© 2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A.
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