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『SKINAMARINK/スキナマリンク』目を凝らしても見えないのに、目を閉じても視える。

◆今週公開の注目作

『SKINAMARINK/スキナマリンク』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

筆者には、怖いものがひとつある。いや、実際にはいくつもあるが、そのうちのひとつは「VHSの画質」だ。同じホラー映画を見るにしても、ブルーレイ画質で見るのとVHS画質で見るのとでは、後者が圧倒的に恐怖を感じる。なぜかは上手く説明できないが、恐らく綺麗に見えすぎるよりはよく見えない方が隙が生まれるからだ。つい想像した、時には本当に創造してしまったナニカが入り込む隙が。

本作『SKINAMARINK/スキナマリンク』は、インターネット上ですでに好き者からの人気を集めているマニアックなホラージャンル、「アナログホラー」に属する作品と言って良いだろう。アナログホラーとは、ざっくり言えば古い記録媒体、まさにVHSなどに残されていたという設定の不気味な映像作品を指す(もしカセットテープを用いた音主体の作品があったとしたら、それもアナログホラーと呼べるかもしれない)。本作も全編が低画質であり、決定的な場面はほぼない。ほとんどは夜中の家の天井や壁、床などを映し続けているだけの奇妙な作品だ。

起こることと言えば、例えばそこにある物が消えたり現れたりする。壁にあったはずの窓やドアがなくなったり現れたりするのだ。明らかに物理法則に反している。他には、誰かによって動かされるおもちゃなどの物体がよく映る。しかし、その誰か自身はほとんど映らない。一応主人公はケヴィンとケイリーの幼いきょうだいだが、その彼らすら足や後ろ姿くらいしか映らない。ストーリーもあってないようなもので、ケヴィンたちが深夜に起きてしまい、親を探すもなぜか姿がなく、外部に繋がる窓もドアもなくなった家の中を歩き回る……、言ってしまえばそれだけの映画である。

我々はスクリーンではなく、壁のシミを100分凝視し続けるような映画体験を強いられるのだ。もちろん、言うまでもなくかなり、かなり人を選ぶ。音楽で例えれば、ジョン・ケージが“作曲”した4分33秒間楽器が演奏されない無音の曲『4分33秒』にも似ているだろうか。楽器は鳴らされないが、しかし厳密には無音ではない。聴衆の服の衣擦れや咳、普段鳴っているとすら気づかない音たちが、“演奏”の度に違う曲を作り出す。壁のシミも、長く眺めているといくつもの違う顔に見えてくるだろう。「スキナマリンク」とは、元は100年以上前のブロードウェイミュージカルの曲で、今はスペル違いの子ども向けの歌「Skidamarink」として知られているが、意味を持たないナンセンスな単語だ。意味がないのなら、観客それぞれが独自に考えるしかない。筆者は鑑賞中何度か意識を失いかけたが、夢現の中で弾けた論理的とは程遠い思考こそが作中の点と点を繋げるような錯覚さえ覚えた。

人が出てきても顔が映らない映画など、明らかに普通ではない。だからこそ、作中数か所だけ顔が出てくる場面で、ただそれだけのことで我々は飛び上がる。闇の奥に何かを見つけた気になって身震いする。あからさまに怖いものを提示されなくとも、敏感になった脳は自らを締めつけ始める。だが、この感覚は初めてではない。むしろよく知っている。昔々、我が家の暗い廊下の奥にも誰かがいた。そうして思うのだ。ああ、自分はよく子ども時代を無事に生き抜いてこられたものだ、と。

【ストーリー】
真夜中に目が覚めた二人の子供、ケヴィンとケイリーは、家族の姿と家の窓やドアがすべて消えていることに気づく。取り残された二人は、歪んだ時間と空間に混乱しながら、暗闇に潜む蠢く影と悪夢のような恐ろしい光景に飲み込まれていく―。

【キャスト】
ルーカス・ポール、ダリ・ローズ・テトロー、ロス・ポール、ジェイミー・ヒル 他

【スタッフ】
監督・脚本:カイル・エドワード・ボール

 

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