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『ブルーベルベット 4Kリマスター版』夜を知らないのは、世界の半分を知らないのと同じ。

◆今週公開の注目作

『ブルーベルベット 4Kリマスター版』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

“カルトの帝王”デヴィッド・リンチ監督が亡くなってから早くも1か月近くが経とうとしている。先日は『マルホランド・ドライブ』をご紹介したが、今週から『ブルーベルベット』の4Kリマスター版の公開が始まるということで、今回はこちらを取り上げよう。『マルホランド・ドライブ』に代表されるように、リンチ作品はシュールで難解とのイメージを持たれているかもしれないが、『ブルーベルベット』は見た目こそ変態的でありながらかなり見やすい方だと言っても決して過言ではない。

本作が描くのは、ホラー映画では非常にポピュラーなテーマである「穏やかな田舎の裏の顔」だ。父が倒れ帰省したカイル・マクラクラン(美しすぎる……)演じる大学生の主人公ジェフリーは、ある日近所の草むらでアリが群がる何かの肉を見つける。拾ってみるとそれは――人間の耳。ジェフリーはこの耳の持ち主を探そうと警察に駆け込み、刑事の娘サンディとともに探偵の真似事を始める。夜な夜なキャバレーで歌っている女性歌手ドロシーを怪しいと睨み、地元の町ランバートンの夜の世界に足を踏み入れてしまったが最後、忘れられない黒い青春を過ごす羽目になる……というノワール映画だ。

冒頭、ボビー・ヴィントンが歌う甘いラブソング「Blue Velvet」で物語は幕を開け明るい田舎の風景が映し出されるが、ジェフリーの父が発作を起こしカメラは草むらで蠢く虫たちを捉える。そしてジェフリーが耳を見つけると、カメラはその穴に入り込んでいく。グロテスクでミステリアスな冒頭から、ジェフリーの見る世界は一変していくのだ。平和な故郷だと思っていたが、それは表面だけ。裏ではギャングが幅を利かせ、ジェフリーより少し年上の大人の女性ドロシー(ここでも『オズの魔法使』要素)を性的に支配している。デニス・ホッパー演じるギャングのボス・フランクは、いつもは粗暴ながら急に母に甘える赤子のようになったり、いつでもガスを吸って興奮し始めたりと濃厚すぎるキャラクター造形で、世間知らずで好奇心旺盛な“子ども”であるジェフリーに世界の広さを知らしめショックを与える。

タイトル通り、イザベラ・ロッセリーニ演じるドロシーが身につけているのは赤い靴ではなく青い天鵞絨(ビロード)の服だ。滑らかな手触りの青い闇に隠されているのは、セクシャルでバイオレントな“大人”たちの秘密に他ならない。自ら闇に近づいて大人の階段を登るジェフリーと対照的なのが、ローラ・ダーン演じる初心なサンディだ。終盤の、世界のいびつさを体現したように歪む彼女の表情は忘れがたい。……さて、ここまでの話でどこが“見やすい映画”なのかと思ったあなた。リンチが考える、全てに打ち勝つものは「Fxxx」とは異なる別の四文字。『オズの魔法使』好きであることからも分かるように、リンチは意外にも大衆的な感覚も持っている人物なのだ。最終的にたどり着くエンディングは、形は違えど誰もが通ってきた道と言えるかもしれない。冒頭と対をなすある演出を経たあなたは、元の世界に戻ってきたのではない。新たな世界へと一歩踏み出したのだ。

【ストーリー】
美しい田舎町ランバートンの平凡な大学生のジェフリーは、急病で倒れた父を病院に見舞った帰り道、家の近くの草むらで切断された人間の片耳を拾う。父親の友人ウィリアムズ刑事に耳を届けたときに「この件には、これ以上深入りしないように」と忠告されるが、刑事の娘サンディから「キャバレーの女性歌手ドロシーが関わっているらしい」と聞く。異様な体験に強く魅了されたジェフリーは、真相を追って手がかりを探しにドロシーの留守宅にこっそりと忍び込み、犯罪と暴力、倒錯した愛欲が渦巻くアブノーマルな夜の世界へと迷い込んでいく……。

【キャスト】
カイル・マクラクラン、イザベラ・ロッセリーニ、デニス・ホッパー、ローラ・ダーン 他

【スタッフ】
監督・脚本:デビッド・リンチ

公式X:https://x.com/weber_CINEMA

 

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