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【今週公開の注目作】『ジェイコブス・ラダー 4Kレストア』35年ぶりにあの悪夢が蘇る。彼は地獄へと続く階段を下っているのか、それとも……。

◆今週公開の注目作

『ジェイコブス・ラダー 4Kレストア』
10月17日(金)シネママート新宿ほか全国ロードショー

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

『ジェイコブス・ラダー』と言えば、どんでん返し映画ランキングの常連だ。筆者も映画にハマりたての頃は、あっと驚く結末の作品ばかりを求めて、そうでないものに当たると何となくガッカリするという、今から考えれば視野の狭い映画ライフを送っていた。その中で出会ったうちの1本が本作だ。確かにひねりが効いた物語ながら、実際は本作ほど見る前からネタバレされている映画もそうない。ジャケットでオチをバラしてしまっている『猿の惑星』と良い勝負だ。すでに本作のオチをご存じの方も多いだろうが、せっかく35年も前の映画が綺麗な映像になって劇場で見られる今、これを期に初めて鑑賞する方もいるだろう。本作はタイトルの時点ですでにネタバレされているのだが、その意味まではここでは言わないでおく。ただ、筆者が10年ぶりくらいに本作を見直してみて思ったのは、本作はオチを知った上で見た方がより胸に迫る作品だということだった。

ジャンルを一言で表せば、一応「ホラー」になるだろう。有名なホラーゲーム「サイレントヒル」シリーズにも影響を与えているという話はよく聞くし、トラウマになりそうなほど鮮烈でショッキングなビジュアルが代名詞の作品だ。ところが、話はそう単純ではない。本作はまず、残酷な戦争映画として始まる。ベトナム戦争の戦場で、アメリカの部隊が何者かの奇襲を受ける。ある者は爆弾で赤い花と散り、ある者は中毒症状で半狂乱になって痛みに悶え苦しみ、ある者は状況を呆然と眺めている。この地獄で、ジェイコブが銃剣で腹部を貫かれた瞬間、彼は傷の部分を押さえながら人気のほとんどない地下鉄の席で目を覚ます。ジェイコブはどうにか生き延びたが、戦争体験のせいでPTSDを発症し、フラッシュバックに苦しんでいる帰還兵のようだ。それからは彼と彼の恋人ジェジーの日常が描かれていく。このようなあらすじだとドラマ映画になりそうなものだが、どうも少し違う。

ジェイコブを襲う幻覚は悪夢的、いや、むしろ悪魔的とさえ言える。明らかに人の形をしていない非現実的な化け物や、不自然に頭をブルブル震わせる人間など奇妙で不気味なビジョンが連なり、彼と我々の背筋を凍らせる。この生き地獄の描写が本作がホラー映画たる所以であり、単なる戦争映画とは一線を画している要因だ。彼にはジェジーと付き合う前に結婚していたサラという妻がおり、子どもまでおり、そのうちのひとりであるゲイブは事故で亡くなっている。サラとは別れてしまったが、ジェイコブは今でも特にゲイブに強い想いを抱いているようだ。映画はそのうち、サラと夫婦だった頃、ゲイブのまだ生きていた頃の回想シーンに移るが、そこがまた不可解なのだ。ジェイコブは、サラにジェジーと過ごした“夢”の話をする。一体、どちらの話が過去なのか? それともどちらかの話だけが事実なのか? そして、再び物語はジェジーとの生活に戻る。この辺りから、何が本当なのかが分からなくなってくる。

さらに、ジェイコブの戦友たちも同じような悪夢を経験していることが明らかになる。ますます物語はリアルとは思えない方向へ加速していき、結末の読めない者は脳を引き裂かれるだろう(ヒント自体は、かなり多く散りばめられている)。だがオチを知った状態で見ていると、ジェイコブの抱えるドラマ的な要素の方が印象的に映る。彼は、身の毛もよだつ幻覚を恐れるのと同じくらい、自分の思い出に苦しみ悲しんでいるのだ。ホラーとしてすでに素晴らしい出来栄えながら、物語は最終的にホラーとはまた異なる地平へたどり着く。オチだけを取り出せば、本作独自のものとは言えない。本作の影響を受けた作品も多いだろうし、同様の構造の物語は本作よりもずっと前から存在するからだ。故に、本作を単なるどんでん返し映画として鑑賞するのはもったいない。初見の方はそれでも十分楽しめるだろうが、初見でない、または初見でなくなった方には劇場での再度の鑑賞を強くおすすめしておこう。悪夢の解像度が上がっているはずだから。

【ストーリー】
ベトナム帰還兵のジェイコブは、今はニューヨークの郵便局に勤め、同僚の恋人ジェジーと暮らしている。しかし最近になって、ベトナム戦争中に敵の襲撃を受けた凄惨な体験が悪夢となって蘇り、さらに身の回りに奇妙な出来事が次々と起こり始める。ベトナム時代の戦友もまた同じような悪夢や幻覚に悩まされていることを知り原因を探るジェイコブだったが、そこには驚愕の事実が待ち受けていた……。

【キャスト】
ティム・ロビンス、エリザベス・ペーニャ、ダニー・アイエロ、マット・クレイヴン、マコーレー・カルキン 他

【スタッフ】
監督:エイドリアン・ライン

1990年|アメリカ|113分|配給:Diggin’|提供:JAIHO
© 1990 STUDIOCANAL

公式サイト:https://www.jacobsladder4k.com/

 

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