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『ロングレッグス』白雪、白い手、白い顔。白には緋がよく映える。

◆今週公開の注目作

『ロングレッグス』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

『ロングレッグス』は、海外ではすでに「今年一番怖い映画」とか「この10年で一番怖い映画」などと言われているスリラーだ。好き嫌いは分かれるかもしれないが、実際本作は怪作と呼ぶにふさわしい正体不明の作品になっている。それは未解決の連続殺人事件をテーマにしているからかもしれないし、予想の斜め上の展開が続くからかもしれないし、はたまたあるキャストの怪演のせいかもしれない。いや、間違いなくその全てが原因だ。

本作の殺人事件現場には毎回、犯人らしき“ロングレッグス”なる者からの暗号が残されているが、これは1960年代から1970年代にかけてアメリカで起きた有名な未解決連続殺人事件、ゾディアック事件を思い起こさせる。未だにゾディアックの正体は分かっておらず不気味だが、ロングレッグス事件の方も中々に奇怪だ。何せ、被害者が殺されるのは見知らぬ何者かによってではなく、いつもその一家の父親によって、だからだ。つまり被害者は犯人の妻子であり、その犯人も犯行後に自殺する。連続殺人事件とは言っても犯人はそれぞれのケースで違い、同じなのは殺害パターンのみなのだ。ただし、“ロングレッグス”の筆跡は家族の誰とも違うので、やはり一連の事件に関わる第三者にして第一の当事者と考えられている。

主人公のFBI捜査官のリーは、若くしてこの闇深い凶悪事件の担当となる。彼女は頭も冴えるが、もはやスピリチュアルなレベルの第六感を備えており(予想外の設定だ)、これまで誰も解読できなかった暗号を解き“ロングレッグス”の正体に近づこうとする……というのがあらすじである。ところが、はっきり言って“ロングレッグス”の足跡をどれだけ追ったとて、その長い脚を視界に入れたとて、黒き謎が秘められた腹までは到底たどり着けない。事件は事前に止められず、むしろ自身の周りで不審人物に悠々と闊歩される。リーを演じる『イット・フォローズ』のマイカ・モンローは今回追いかける(フォロー)側に回ったはずだが、周回遅れも良いところだ。

キャストのリストを見れば分かってしまうので少しネタバラシすると、本作の重要人物はニコラス・ケイジが演じている。しかし、言われなければそのキャラクターはケイジには見えない。これまでいくつもの怪演を見せてきたケイジだが、本作でのそれはさらに一段上だ。狂気と笑いの狭間を表現する彼の演技は時に笑いの方に傾き人々の間でネタになるが、今回は笑ってしまいそうになる一歩手前で観客を凍りつかせる。監督はアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』で知らぬ者はいないアンソニー・パーキンスの息子、オズグッド(オズ)・パーキンスで、いつも地味目な作風ながら、凡百のホラーとは一線を画す得体の知れなさを醸し出すのが上手い。すでにスティーヴン・キングの原作を映画化した最新作『The Monkey(原題)』もアメリカで好評で、『ロングレッグス』までの4本のパーキンス作品は“地味”に全て日本上陸している。『The Monkey』の公開含め、今後も要注目の監督だ。

3月14日に公開される『ロングレッグス』。場違いなように思えるかもしれないが、本作こそホワイトデーにふさわしい。血の気が引いた我々の顔は、ひどく青白いケイジの顔よりも顔面蒼白になるだろうし、これまでの“借り”を精算するには3倍返しでも足りないのだ。濡れた緋色のリボンがかけられたこの漆黒にして純白のプレゼント、受け取らないとは言わせない。

 

【ストーリー】
1990年代半ば、オレゴン州。FBI支局に勤める新人捜査官のリー・ハーカーは並外れた直感力を買われ、重大な未解決事件の担当に抜擢される。ごく平凡な家族の父親が妻子を殺害したのち、自ら命を絶つ。そのような不可解な殺人事件が過去30年間に10回も発生していた。いずれの現場にも侵入者の痕跡はなく、“ロングレッグス”という署名付きの暗号文が残されていたのみ。“ロングレッグス”とは一体何者なのか。真相に迫ろうとするハーカーは暗号文を解読し、事件にある法則を見出すが、その正体も行方も依然としてつかめない。だがやがてハーカーの過去とロングレッグスの意外な接点が浮上し、事件はさらなる恐ろしい事態へと転じていくのだった……。

【キャスト】
マイカ・モンロー、ニコラス・ケイジ、ブレア・アンダーウッド、アリシア・ウィット、キーナン・シプカ 他

【スタッフ】
監督・脚本:オズ・パーキンス

公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/longlegs/

 

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