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『ドライブ・イン・マンハッタン』1と1が出会った。そうしたら“10”になった。

◆今週公開の注目作

『ドライブ・イン・マンハッタン』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

“映画的”という言葉は、果たしてどのような特徴を指しているのだろうか。映像と音楽がリンクしていて監督の意図に沿って観客の感情を動かす機能があることか。全く関係のない映像同士を繋げて何かしらの意味があるように見せることか。それとも単純に、様々なロケーションで撮れたリッチな映像を惜しげもなく披露することか。特に3つ目を重視するならば、本作『ドライブ・イン・マンハッタン』はあまり“映画的”には見えないだろう。実際、これが監督デビュー作となるクリスティ・ホールの本業は劇作家で、自ら脚本を書いた本作も当初は舞台劇にする予定だったようだ。カメラが映し出すのは、ある女性がタクシーで空港から自宅に帰るまでの間、男性運転手と会話する様子のみ。完全なる会話劇である。

しかし、本作は舞台ではできない、映画にしかできないことを確かにやっている。それは、俳優の顔のクロースアップだ。上映時間の9割は、乗客役のダコタ・ジョンソンと運転手役のショーン・ペンの顔のどアップが映っていると言っても過言ではない。ほとんど何も起こらない映画であるが、裏を返せば心の動きとそれに合わせて変化する微細な表情、つまり演技(アクト)にフォーカスしたとても繊細な“アクション”映画なのだ。類似作品として、電話しながら車を運転するトム・ハーディのみを映し続けた『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』などがあるが、これらのような作品は会話だけで観客の興味を引っ張り続けるためにある程度のミステリー要素を必要とする。本作の場合、タクシーの行き先は分かりきっているのに、キャラクターの心は曲がりくねった長い道の果てに観客の予想しない地平へたどり着かないといけないのだ。

沈黙を埋めるために始まった何気ない会話。粗野な雰囲気ではありつつも興味深い話を聴かせてくれる運転手に、女性客は少しずつ心を開いていく。空港では硬かった表情がだんだんと和らいでいくが……ショーン・ペンがかつて“ハリウッドの悪童”と呼ばれていたのを忘れてはいけない。素性が全く分からない間柄のはずなのに、女性客は長年多くの人間を見てきた運転手に容易くプライベートを見透かされる。メッセージをやりとりしている最中の“恋人”が既婚者であることまで。ミステリーならぬ、もはやワンシチュエーション・スリラーのようですらある。別にこの運転手は殺人鬼でも悪人でもないが、あまりにも2人の会話がスリリングだからだ。そうして、

劇中でプログラマーである女性客が発する「1が真で0が偽」というセリフにならい、筆者はこの場で“1”の態度でいると誓おう。正直に言って、本作はポスターからイメージされるような美しい映画ではない。運転手の言葉遣いはあけすけで汚いし、映像的にもオブラートに包んだ表現はされない。そう、本作には徹頭徹尾、綺麗事がないのだ。運転手、もといおじさんが語る「男と女の違い」の話は、現実社会で口に出せばセクハラその他何らかの罪名が付けられそうな問題発言だが、“1”理ある。ある意味ワンナイトな後腐れのない関係だからこそ、何でも言い合える。そのはずが、終わってみれば少しだけ名残惜しいような気もして……。実質2人しか映っていない映画なのに、それを感じさせない芳醇さがある。人によっては、建前のない本音の応酬に事故にでも遭ったような感覚を覚えるかも知れないが、そうであればあなたの進む道はわずかにでも、確かに変わってしまうのだろう。永遠に。

【ストーリー】
夜のニューヨーク。ジョン・F・ケネディ空港から一人の女性がタクシーに乗り込んだ。シニカルなジョークで車内を和ます運転手と女性はなぜだか波長が合い、会話が弾む。聞けば運転手は二度の結婚を経験し、幸せも失敗も経てきた。一方プログラマーとしてキャリアを築いてきた女性だが、恋人が既婚者であることを運転手に容易に見抜かれてしまう。もう二度と会うことのない関係だからこそ、お互いの本音を打ち明けていく二人。他愛のないはずだった会話はやがて予想もしなかった内容へ発展し、女性は誰にも打ち明けられなかった秘密を告白し始める。

【キャスト】
ダコタ・ジョンソン、ショーン・ペン 他

【スタッフ】
監督・脚本:クリスティ・ホール

公式X:https://dim-movie.com/

 

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