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『怪物』落ちない染みが“怪物”を生み出す。

◆今週公開の注目作

『怪物』

 

文:つみき(大好きなのは銀杏と緑茶割り) 

人生は残酷でグロテスクだ。
生きれば生きるほど、逃れることの出来ない澱みが日々じわじわと足元を覆っていき、飲み込まれまいともがく人もいれば、もがく術も知らずに飲み込まれてしまった人もたくさんいるだろう。けれどもその澱みは生まれた時から存在するのではなくて、生きていくうちにじわじわと、じわじわと私達の人生にしぶとく落ちない染みを作る。その深く奥まで入り込んだ落ちない染みが「怪物」を生み出すのかもしれないし、あるいは染みの落とし方が分からなくなってしまった人間は、時として「怪物」に見えることもあるのかもしれない。

第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にて脚本賞を受賞した今作の感想を述べるにあたって、感想を書こうとすると全てがネタバレになるという文章をよく目にするが、この映画の凄さは決して「本当はそうだったのか」という事実にベクトルがあるわけではない、と個人的には思っている。私達にべっとりと張り付いた染みの原因は一体何なのか、澱みの発生源は何なのか。プライド、マスコミ、世間体、めんどくさいという感情、きっとそうに違いないという確信のない思い込み…。つまるところ、澱みの品質表示をまざまざと観せつけられ、目を離すことは許されないし、離すことも出来ないだろう。

「どんなに良い人間でも、きちんとがんばっていれば、だれかの物語では悪役になる。」
オジロマコト著「猫のお寺の知恩さん」という漫画で上記のセリフが登場するのだが、今作では悪役ではなく「怪物」になってしまうのだから恐ろしい。では一体誰が「怪物」だったのか?自分の考えが目紛しく存在するのと同じだけ、この世界には知る術もない思考達が今もたくさんの場所で巡り続けていることを、当たり前のことなのに、どうしても忘れそうになる。そもそも、果たして「怪物」は存在するのだろうか?

自分は年齢だけを重ねて大人になった気がしているだけで子どもの時から何も変わっていないなあと思っていたのだが、気付く間もなく、しっかりと大人になってしまっていたんだな、と思い知らされた。初めて知る感情も、夏の木々が青々しく見えることも、泥だらけで走り出すことも、豪雨に叩きつけられる音が何かの音に聴こえることも、もうないのだろう。だからこそ、冒頭述べたように人生は残酷だと思うが、まとわりついた澱みを振り払うように、できるだけ綺麗なところを選んで歩いていけるように、大人になってしまったけれど迫りゆく澱みに必死に抗って、これからもまだまだ生きていける、彼らが生きる眩しい世界と、大人たちの生きる澱みの世界は同じ場所に存在するのだから。

【ストーリー】
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した――。

【キャスト】
安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太/高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子

【スタッフ】

監督・編集:是枝裕和『万引き家族』
脚本:坂元裕二『花束みたいな恋をした』
音楽:坂本龍一『レヴェナント:蘇えりし者』
企画・プロデュース:川村元気 山田兼司
製作:東宝、フジテレビジョン、ギャガ、AOI Pro.、分福
配給:東宝 ギャガ 
©2023「怪物」製作委員会

公式サイト:gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/
公式twitter:@KaibutsuMovie
公式instagram:@kaibutsumovie

2023年6月2日(金) 全国ロードショー

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