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『サウンド・オブ・サイレンス』生きている限り音からは逃げられない。ならばいっそ、“音無し”く生きるのを止めよう。

◆今週公開の注目作

『サウンド・オブ・サイレンス』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

幽霊は存在するのだろうか。存在するとしたら、なぜ筆者や大半の人間には“視え”ないのだろうか。10年ほど前にある中学生から聞いた話では、彼には幽霊が“見え”ていたという。つまり、あたかも物理的に、普通の人間と同じようにその目に映ったと。あまりにも無意識的に自然に視界に入るので、後から「あれは幽霊だったのか」と気づくことも何度かあったようだ。普段嘘をつかない、至って真面目な子だったため、反応に困ったものだ。

一方、幽霊を視るには“チャンネルを合わせる”必要があるという説もある。ラジオの周波数を合わせるように…なんて例えられるが、イタリア産ホラー『サウンド・オブ・サイレンス』でもラジオが幽霊との邂逅のきっかけになる。正確にはチャンネルを合わすのではなく、曰く付きのラジオの電源を入れるだけなのだが、ツマミを回してオン・オフを切り替えると幽霊の姿もオン・オフ。パッと姿が現れたと思ったらスッと消えるのだ。ならば電源さえ入れなければ良いのではと思うところだが、後に実は音自体が触媒であると明らかになる。

音。それは我々が生きている以上、絶対に避けられないものだ。心臓が脈打つだけで、息をするだけで、微かにでも音が発生してしまう。本作では、幽霊が現れるにはある程度大きな音が必要だが、その条件は簡単に満たされる。間違って何かを蹴っ飛ばしでもすれば、すぐに彼らはそこに現れるのだ…。歌手志望ながら人前で歌えない主人公エマは、父親が怪我で入院したためアメリカから故郷のイタリアに戻る。怪我の理由は、いきなり暴力的になった父親を母親が階段から突き飛ばしたからのようだが、仲睦まじいはずの両親がなぜ? そこに関わってくるのが、まさに音とともに現れる幽霊で…。

音の演出はホラー映画に欠かせない。どのようなホラーでも、急に大きな音を出して驚かす手法であるジャンプスケアが一度は使われている。よく、恐怖シーンに合わせて「キッ!」と弦楽器の耳障りな高音が鳴るが、これはもちろん劇中の登場人物には聞こえていない。観客に対して鳴らされている警鐘なのだ。言うなれば、「ここで笑って」と書かれたカンペと同じ。ひとつ違うのは、ジャンプスケアは人間の生理現象に働きかけ、否が応でも反応させようとする点だろう。個人的には驚かしと怖がらせはイコールではないと考えるが、音が触媒である以上当然のごとく、本作はジャンプスケアのつるべ打ちである。この演出に恐怖を感じる方にはたまらない93分になるだろう。

もちろん、ジャンプスケアのためだけに音がフィーチャーされているわけではない。終盤、なぜ音が鳴ると幽霊が現れるのかが明らかになるが、やはり思うのは、音は生者の特権であるということ。鼓動の音も、呼吸の音も、または何かに抗うために“声を上げる”ことも。例え音が鳴っていないとしたって、自分の耳が鳴る。ジャンプスケアにビビっているその瞬間に、我々は生を実感している。音を意味する「サウンド(sound)」にはもうひとつ意味があるだろう。そう、「健全な」だ。ホラーファンは不健全な趣味を持っていると思われがちだが、とんでもない。全くその逆なのだ。多分。

そう言えば、全く“視え”ない筆者でもナニカを“聞いた”経験はある。昔、自宅がリフォーム工事中だった頃、2階の寝室で眠ろうと敷いた布団に横向きに転がると片耳が布団越しに床につき、聞こえてきたのだ。昼間に階下で行われているような、ハンマーで何かをカンカンカンと叩く音が。夜間に聞こえるはずのないその音が! …しかし、音は生者のものなのだから、きっと小人たちがこっそり工事を進めてくれていたのだろう。巷で幽霊の仕業と噂されるラップ音だって、実際に屋根裏にいる見知らぬ人間が立てている音なのだ。きっと。

【ストーリー】
ニューヨークで歌手を目指しているエマは、オーディションに落ち続け自信を失っていた。そんな中、実家で暮らす父親が入院したという報せが入り、恋人のセバと一緒に故郷のイタリアへと向かう。父親は面会謝絶となっており、病院で居合わせた母親に理由を聞くが、急に暴れ出した父親から殺されそうになったと震えるばかりだった。その夜、実家に泊まることになったエマは、ガラクタ修理が趣味だった父親の隠し部屋で、古いラジオを見つける。すると、突然ラジオがひとりでに音楽を流し始める。不審に思いつつもスイッチを切るが、その瞬間何かの気配を感じ取る。エマがスイッチを入れて再び音楽が流れ始めると、“それ”は確実に目の前に現れた――。

【キャスト】
ペネロペ・サンジョルジ、ロッコ・マラッツィタ、ルチア・カポラーゾ、ダニエーレ・デ・マルティーノ、キアラ・カソラーリ 他

【スタッフ】
監督・脚本・撮影・編集・製作:アレッサンドロ・アントナチ、ダニエル・ラスカー、ステファノ・マンダラ
製作:ラファエル・リナルディ、リカルド・スカルヴァ

配給:アルバトロス・フィルム
© 2022 T3 Directors SRL
2024年1月26日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国公開!
公式サイト:https://sound-of-silence.jp/

 

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