MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

【今週公開の注目作】『マーターズ 4Kデジタルリマスター』 その瞳の、事象の地平線の先に何がある。

【今週公開の注目作】

『マーターズ 4Kデジタルリマスター』
8月14日(金)シネマート新宿 ほかにて全国公開
公式サイト:https://synca.jp/osorezone/film/194/ 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ホラー映画に興味を持って、自発的に作品を探し回った経験があればまず聞いたことがあるだろうタイトル、『マーターズ』。非常に有名な……いや、非常に悪名高い本作がこの度4Kデジタルリマスター版として劇場に蘇る。顔を綻ばせるべきなのだろうか? むしろ強張りそうだ。幸運にもどのような映画か皆目見当がつかないという方に説明すると、『ブラックパンサー』シリーズのルピタ・ニョンゴが、ジョーダン・ピール監督作『アス』の撮影前に“自己責任で”予習するよう宿題を出され、勇気を振り絞った結果激しく後悔する羽目になった。その後彼女は、意外にもRotten Tomatoesのお気に入りホラー5選紹介動画で本作を挙げることになるのだが、発した言葉は「決して見るべきじゃなかった」だ。単なる冗談か、ジョーダン・ピールへのちょっとした復讐か。どちらにせよ、彼女の言葉は何一つ間違っていない。「拷問映画」と聞くと、多くの方は「鑑賞体験が拷問に等しいほどつまらない映画」を指すと思うだろう。本作は違う。文字通り、「ひたすら拷問を描いた映画」だ。

冒頭、血塗れの少女が、ぎこちない走り方で、絶叫しながら、廃墟から逃げ出してくる。このあまりにも悍ましいオープニングに耐えられない方は、もう本作を見るのに向いていない。この幕開けはいうなれば地獄の門だ。この先には、一切の希望が存在しない。虐待を行っていた謎のカルト集団のもとから生還するも壮絶なトラウマを抱えた少女リュシーは、15年後に加害者夫婦を見つけ出し、罪のない子どもたちを含め幸せそうな家族全員をショットガンで惨殺する(ショックを和らげるトリビアを言うと、長男役はカナダの映画監督グザヴィエ・ドランが演じている)。これは決して展開のネタバレではない。ここから物語は始まるのだ。最終目的となりそうな復讐を冒頭で終えてしまって、この後は一体どうなってしまうのか?

本作は“胸糞映画”ランキングで常に上位争いをしている猛者であり、限界を超えたゴア描写で知られるフランス製エクストリーム・ホラーの代表作だ。ちょうど10年前に初めて鑑賞した時は、それ以上でも以下でもない感想を抱いた。しかし、今では全く違う見え方をしたのに我ながら驚いた。復讐を果たしたリュシーと、少女時代から傷ついた彼女を支えてきた友人アンナの関わりが描かれる映画前半は、ひたすら重く悲しい。加害者が死んでも心は晴れず、リュシーは得体のしれない化物のようなヒト(ヒトのような化物、ではない)に襲われる。アンナにはそれが見えず、フラッシュバックのように侵入的(本人の意思と無関係)に現れるので、観客もアンナ同様トラウマからくる幻覚かと単純に解釈してしまうのだが、この時点でリュシーに近寄りがたさを感じるのを否定できないだろう。明らかな被害者なのに、あまりに壮絶な体験に共感が追いつかず腫れ物のように扱ってしまう。そうして、中途半端な善人である我々は無力感に苛まれる……が。

本作の肝はここからだ。常に思考を促される前半と打って変わって、後半は思考を停止したくなる。これが“拷問映画”たる所以だ。前半はあくまで拷問的な内容であったが、後半は紛うことなき拷問シーンが数十分続く。観客にとっても、まさにかつて中国で行われていた非常に緩やかな死刑、凌遅刑のごとしだ。共感も痛覚も全て遮断しなければとても直視に耐えない。“彼女”は発狂しそうな苦痛の中に何を見出したのだろうか? 誰がマーター(殉教者)だったのだろうか? その者の死に他者が勝手に意味を付けて良いのだろうか? およそ“拷問映画”に似つかわしくない哲学的で示唆に富むクライマックスから、生まれながらにして神より凌遅刑を言い渡されている我々は何を見出せるのだろうか? 間違いなく、この世には見なくて良い映画がある。だが同時に、その光の芸術によってしか辿り着けない地平線もある。辿り着いたが最後、もう戻れない一線が。

 

【ストーリー】
1970年初頭のフランス。行方不明だった少女リュシーは、傷だらけで衰弱した姿で路上を彷徨っているところを発見される。彼女は何者かによって長い間、監禁・拷問・虐待されており、そこから自力で脱出したのだった。だが、性的虐待の痕跡はなく、犯行の目的は不明のままであった……。15年後のある朝、森に囲まれた屋敷に、突然呼び鈴が鳴り響く。家主が扉を開けると、そこには猟銃を構えたリュシーの姿があった。自分を虐待した犯人をついに見つけたと確信した彼女は、復讐の引き金を引く。成すべきことを終えたリュシーから電話を受け、屋敷に向かった親友のアンナは、その惨状に思わず目を背ける。死体を処理し、立ち去ろうとする二人。しかし、そこで想像を絶する真実に直面することになる。

【キャスト】
モルジャーナ・アラウィ、ミレーユ・ジャンパノイ、カトリーヌ・ベジャン、グザヴィエ・ドラン 他

【スタッフ】
監督:脚本:パスカル・ロジェ

 

関連記事

『ヒトラーの毒見役』 夫たちはその男の手足となった。妻たちはその男の胃袋となった。
『プライベート・ケース』原因ってな、200種類あんねん。
『デスストーカー』 血湧き肉躍る戦い!血吹き肉剥き出る痛い!大きな少年のための特撮がここに!
『スカーフェイス【4K版】』 この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば。
『アウトウォーターズ 裂けた砂漠』 喉が渇く。肌が焦げる。汗が止まらず、血は枯れる。

バックナンバー