MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

『マリグナント 凶暴な悪夢』(前半) ホラーの開拓者、ジェームズ・ワンが辿り着いた新境地。本作はもはや観客にとって「有害」だ!

◆今週公開の注目作 
『マリグナント 凶暴な悪夢』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

今回はいつもと少し趣向を変えて、本作『マリグナント』公開前と公開後の2回に分けて紹介記事を書くことにしたい。というのも、まだ筆者が本編を鑑賞できていないからである。悔しさを紛らわすために、この“前半”記事では読者の皆さんと同じ立場から本作への期待を煽るだけ煽ることにしよう。

監督のジェームズ・ワンは、斬新な恐怖表現を開拓し常にホラー映画を新たな次元に進めようとしてきたクリエイターのひとりだ。2作目の『ソウ』はビンチェンゾ・ナタリ監督の『CUBE』とともに「デスゲーム映画」、「シチュエーションスリラー映画」という新ジャンルを作り上げた。4作目の『インシディアス』で今後何度もタッグを組むことになるパトリック・ウィルソン(『死霊館』主人公夫婦の片割れエド・ウォーレン役など)と出会い、5作目『死霊館』でホラー映画のユニバース(各作品の出来事が同一世界で起こっているという設定)化に挑戦した。そして、アクション大作『ワイルド・スピード SKY MISSION』や『アクアマン』を経ての記念すべき10作目が今回の『マリグナント』である。

予告編を見る限り、本作には様々なホラー要素が組み込まれているように思われる。主人公マディソンが悪夢の中で殺人鬼と出会うところはウェス・クレイブン監督の『エルム街の悪夢』的だし、殺人鬼の得物は刃物らしく、それで獲物を次々に襲っている。このスラッシャー映画的な部分は、同じクレイブン作品で言えば『スクリーム』に似ている。殺人鬼の正体は、マディソンの幼少期のイマジナリーフレンド(空想上の友だち)ではないかと言及されている。イマジナリーフレンドを扱ったホラーでよくあるパターンは、自分の別人格だったというオチだ。つまりサイコホラーのようにも思える。その後、幼いマディソンは「彼は悪魔よ」と答える。悪魔は、それこそ『インシディアス』や『死霊館』に共通する要素だ。これら全てをぶち込んで、ジェームズ・ワンはどのようなキメラを作り上げたというのか?

本作には、国内外から多くの「新たなホラー」というレビューが寄せられている。ジェームズ・ワン自身もそれを目指して本作を撮ったが、同時に「自分のルーツに立ち戻った」とも語っている。これはどういうことか。彼の敬愛する映画監督のひとりに、『サスペリア』で有名なイタリアの巨匠ダリオ・アルジェントがいる。アルジェントは、主に70~80年代に「ジャーロ(「ジャッロ」とも)」と呼ばれるイタリア製猟奇スリラーを数多く撮ってきた。ジャーロは、刃物を用いた殺人鬼の犯行を、斬新なカメラワークと色彩で時にアートのように魅せてしまう、狂気にまみれた強烈なスプラッターだ。実際、それに影響された本作はジェームズ・ワン作品で初めてのR18+となっており、おびただしい量の“赤い”血が流されることが予想できる。ちなみに、ジャーロ(giallo)とはイタリア語で“黄色”を意味し、多くのジャーロ小説のカバーが黄色だったことに由来している。そして、マディソンを演じたアナベル・ウォーリス。実に美しい“青い”目と、『死霊館』ユニバースでお馴染みの、実在する呪いの人形「アナベル人形」と同じ名を持った女優で、最初にアナベル人形の恐怖を描いた『アナベル 死霊館の人形』(監督はジェームズ・ワンではない)で主演を務めたのが彼女だ。ここに来てのアナベルの再起用からも、ジェームズ・ワンの意気込みが窺える。…ところで、色の三原色である赤・黄・青(正確にはマゼンタ、イエロー、シアンだが)を同量混ぜると黒になることはご存知だろう。本作も、血、ジャーロ、アナベルを混ぜることでこれ以上ない漆黒の闇を生み出した(はずだ)。「マリグナント(malignant)」とは「有害、強い悪意があること」を意味する。ジェームズ・ワンはこの映画で観客を殺そうとしているのだ。良いだろう、受けて立とう。映画の恐怖で死ぬなんて、ホラーファン冥利に尽きる。もし生きて戻れたら、“後半”記事でさらに踏み込んだ内容紹介をしたいと思う。皆さんも生きて劇場を出られんことを。

後編はこちらから!
『マリグナント 凶暴な悪夢』(後半) 
ジャーロであり、アンチ・ジャーロ。ジェームズ・ワン史上最も野心的な異形の怪物が、身の毛もよだつ産声を上げる。

【ストーリー】
間近で恐ろしい殺人を目撃する悪夢体験に苛まれるマディソン。その連続殺人が現実世界でも起きていく。彼女の秘められた過去につながる“凶暴な悪夢”の正体=Gとは!?

【キャスト】
アナベル・ウォーリス、マディー・ハッソン、ジョージ・ヤング、マイコール・ブリアナ・ホワイト

【スタッフ】
監督:ジェームズ・ワン
脚本:アケラ・クーパー
原案:ジェームズ・ワン、イングリット・ビス&アケラ・クーパー
製作:ジェームズ・ワン、マイケル・クリアー
製作総指揮:エリック・マクレオド、ジャドソン・スコット、イングリット・ビス、ピーター・ルオ、チェン・ヤン、マンディ・ユウ、レイ・ハン

2021年/アメリカ映画/原題:MALIGNANT
(C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

バックナンバー