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【今週公開の注目作】『バックルームズ』 この宇宙(スペース)は、呼吸ができてひどく息苦しい。

【今週公開の注目作】

『バックルームズ』
2026年8月28日(金)より全国順次公開

公式HP:https://a24jp.com/films/backrooms/
 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

いよいよ、AIが生成した動画がフェイクか本物か、見分けがつかなくなってきた。恐ろしい時代だ。クオリティの進化を端的に表す指標として、ミーム的に用いられるものがある。それはウィル・スミスがパスタを食べる動画だ。2023年の時点では、この動画は称賛ではなく嘲笑の対象だったと言えるだろう。スミスはフォークを持っているのに、なぜか麺を素手で鷲掴み。乱暴に口に運ぶと、食べるというより、パクパクと動く口の中に麺が吸い込まれていく。“食事”中のスミスの顔面は完全に崩壊してしまっており、滑稽であると同時にクリーピー(不気味)だ。その後、スミス本人がこれを真似た粋な動画をアップして話題になったものの、現在では一見して偽物とは分からない出来にブラッシュアップされてしまった。2023年版と2026年版では、果たしてどちらの方が本当の意味でクリーピーなのだろうか。

ネット用語で「クリーピーパスタ」と言えば、上記とは異なる意味合いがある。元々「コピーパスタ」という言葉から派生したもので、これは日本語でいう「コピペ(コピーアンドペースト)」のことだ。つまり、多人数によりコピー・貼り付けされて広まっていく文章を指す。このうち、ホラー色が強い、ネット上の都市伝説とも呼ぶべきものがクリーピーパスタである。なぜ“不気味なパスタ”なのか? お察しの通り、この“パスタ(pasta)”は“ペースト(paste)”の変形だ。近年日本では、2ちゃんねる発祥の都市伝説を“原作”とした『犬鳴村』や、今年公開作品だと『巨頭オ』などのホラー映画が多く作られているが、その海外版だと思って良いだろう。そして、名前はとびきり有名ながらレシピ考案者は不詳で、奥深い風味でありながら誰にでも安価に作れる“パスタ”こそが「The Backrooms」である。

2019年、匿名掲示板4chanに壁紙が黄色く延々と続いている謎の空間の画像が貼られた。原作者と言えるであろうそのユーザーによれば、この空間は時折何かしらの理由で足を踏み入れてしまう、果てのない、人気もない、ただただそこに存在する現実世界の裏側だ。これは、あるべき人の姿がなく、どこかとどこかを繋ぐ空虚な狭間である「リミナルスペース」の一例と言える。万人に対し「ケノプシア」と呼ばれる静けさへの物悲しさ・不気味さを呼び起こす、早朝の駅構内、生徒のいない学校の廊下。廃墟と異なり、メアリー・セレスト号のようにそこから人だけが消えてしまったような違和感。当初の目的を失った場所には何が残るのだろうか? 存在の不安と、不思議にも懐かしさすら覚えるこの空間は、人類の集合的無意識なのだろうか?

ストーリーもなく、短い設定だけしかない「The Backrooms」は、だからこそ世界中の誰もをクリエイターとして迎え入れた。様々な怪物や部屋の設定が足され、空間は当初より遥かに膨張していったのだ。その中で、空間を初めてアナログホラー的に映像化してみせたのが当時16歳のケイン・パーソンズであり、A24に目を付けられた彼は20歳でこれを本作『バックルームズ』として長編映画化してしまい、世界的特大ヒットを叩き出した。映画では、家具店を営む人生に問題を抱えた中年男性クラークと、そのセラピストであるクラインを主人公に、ふたりが家具店の地下から迷い込む茫漠たる虚無が描かれている。

ここ最近の流れからは確かに映画化されそうだが、その多くに共通するように映画化に向いていなさそうな題材を、限りなく原作者に近い立場のパーソンズはどのように料理したのか。謎が謎を呼ぶ一番のその見所は劇場で確かめていただくとして、全ての始まりとなった投稿画像は後に、実際の物件を家具店が改装している場面だったことが判明している。現実と虚構の境目がひどく曖昧な現代において、呼吸可能な、蛍光灯が照らすぼんやりと明るい宇宙(スペース)はすでにあなたの自室の真隣に、そして心の中に広がってしまった。閉所恐怖症と無限恐怖症を同時に引き起こすその空間に棲む怪異が空飛ぶスパゲッティ・モンスターだったなら、少しはマシだったのだが……。

【ストーリー】
ある日、自らの店の地下から異次元へと迷い込んでしまった男・クラーク。ルールすら存在しない不条理な世界で、彼は怪異に直面していく。なぜ、この空間は存在するのか。そして、ここで一体何が起きているのか――。

【キャスト】
キウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェ 他

【スタッフ】
監督:ケイン・パーソンズ

 

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