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『パーフェクト・ケア』高齢化はビジネスチャンス。しかしきっとあなたは搾取される側になる。

◆今週公開の注目作
『パーフェクト・ケア』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

世界的に見て、高齢化は非常に大きな問題だ。かの大国アメリカですら、老いに対して武力で対抗することは叶わない。去年の時点で、高齢化率は16.63%。人口は3億人を超えているから、少なくとも5000万人は高齢者という計算になる。これは日本の人口の4割に相当する数で、今も増加し続けている。つまり、詐欺師にとって超大規模な“市場”は現在進行形でさらに拡大中なのだ。

詐欺といっても、オレオレ詐欺などであれば対策の立てようはある。しかし、高齢者の権利と資産を守るはずの成年後見人が詐欺師だったら…? 本作の主人公マーラ・グレイソンは裁判所によって選出される法定後見人だ。『パーフェクト・ケア』という邦題の通り、認知症などの高齢者たちに非常に素早く的確なサービスを用意する優秀な人物として知られている…が、実は彼らの資産で私腹を肥やし至福の喜びを感じているろくでもない人間である。後見人は英語で言えば「ガーディアン(guardian)」だが、守っているのは自分の利益だけ。恐ろしいのは、マーラがカモにするのは判断能力が低下した高齢者だけではないことだ。劇中で、老女ジェニファーはいたって健康にも関わらずマーラによって独居が不可能な老人に仕立て上げられてしまう。どうやって? 入所施設の長や医者までがマーラの共犯者なのだ! なんともばっちい、甘い汁の回し飲みである。裕福かつ身寄りのいないジェニファーのような高齢者は、マーラたちのカッコウの標的なのだ。

カッコウと言えば、本作を観ていると往年の名作『カッコーの巣の上で』が思い出される。ジェニファーが入所する…いや、幽閉される施設は、まるで刑務所か、それよりもひどい場所に思える。携帯電話すら使わせてもらえず薬漬けにされ、当たり前の反応なのだが怒ったりすれば病状が悪化したと判断される。袋小路だ。刑務所の方が幾らかマシだったろう。罪さえ償えば出られるのだから。だが、ジェニファーには償うべき罪などない。問題なく暮らしていたからこそ“投獄”されたのだ。もう自力で脱出する術はない。

しかしここで、ジェニファーを知っているらしい謎のロシアン・マフィアのボス、ローマンが登場する。演じているのは『ゲーム・オブ・スローンズ』で主人公のひとりとも言えるキャラクター、ティリオン・ラニスター役を務めたピーター・ディンクレイジ。ティリオンは、無慈悲なラニスター家において数少ない情に厚い人物だ。そして今回もマフィアのはずが、老女を助けようと動く。どう考えても正しい行動である。マーラよりもよっぽど主人公らしいではないか! ラニスター家が(非公式に)掲げる標語は、「ラニスターは常に借りを返す」。ジェニファーのバックにマフィアがいることに気付かない、邦題が泣くレベルのケアレスミスのせいで、マーラは命の危機にさらされていく。

むしろマーラが痛い目を見たり、それこそ本物の牢獄に入ってもらった方が気分は良いのだが、マーラ役のロザムンド・パイクもまた曲者なのだ。ネタバレになるので内容を詳しく話せないが、『ゴーン・ガール』で失踪する妻を演じていたのが彼女である。観客がついていけないのに、不思議な共感も誘う人物を見事なバランスで体現していた。マーラには共感こそできずとも、常に余裕たっぷりに白い歯を光らせニコッと笑う姿が爽やかすぎて、嫌悪感を忘れてしまいそうになる。しかし、それは危険な兆候だ。…子どもを見て、自分の少年時代を思い出したことがあるだろう。だがそれに比べて、高齢者を見て自分の老後を考えることはどれほどあるだろうか? 子どもだった経験はあるが、年老いた経験はないのでピンとこないのだ。マーラにそれほど嫌悪感を抱かなかったとしたら、それはきっと自分がいつか老いることを忘れているからだ。ジェニファーは未来の自分かもしれないのだ。

実際、同様の詐欺は現実に起きている。また最近、高齢者の例ではないが、後見人である父親から13年にわたって虐待的な扱いを受けていたブリトニー・スピアーズがようやく解放されたことが話題になった。いつ自分の人生が自分でコントロールできなくなるのかなんて、誰にも分からない。「ケア(care)」という言葉には、「気にする」という意味もある。本作は誰もがケアするべき映画だ。ムカムカする鑑賞体験になるかもしれないが、この2時間でいつか訪れるかもしれない最悪な出来事を回避するためのイメージトレーニングができると思えば、悪くはないだろう?

【ストーリー】
法定後見人のマーラ(ロザムンド・パイク)は、判断力の衰えた高齢者を守り、ケアすることが仕事だ。常にたくさんの顧客を抱え、裁判所からの信頼も厚いマーラだが、実は彼女は裏で医師や介護施設と結託して高齢者たちから資産を搾り取る悪徳後見人だった。パートナーのフラン(エイザ・ゴンザレス)とともにビジネスは順風満帆。まさに“アメリカン・ドリーム”を手に入れたマーラだったが、突如その目前に暗雲が立ち込める。新たに獲物として狙いを定めた資産家の老女ジェニファー(ダイアン・ウィースト)をめぐって、次々と不穏な出来事が発生し始めたのだ。そう、身寄りのないはずのジェニファーの背後にはなぜかロシアン・マフィア(ピーター・ディンクレイジ)の影が!!迫りくる生命の危機、まさに絶体絶命。「私に“負け”はない」と豪語するマーラの運命は果たして―!?

【キャスト】
ロザムンド・パイク、ピーター・ディンクレイジ、エイザ・ゴンザレス、ダイアン・ウィースト

【スタッフ】
監督: J・ブレイクソン(『アリス・クリードの失踪』)

配給:KADOKAWA
©2020, BBP I Care A Lot, LLC. All rights reserved.

公式HP:movies.kadokawa.co.jp/perfect-care/
公式Twitter:@perfectcare_JP

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