『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』あの別れから皆が一歩進むために。永遠に忘れられない美しさがここに。

2022.11.12

◆今週公開の注目作

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

2020年8月28日、我々の生きるこの宇宙(ユニバース)から、そしてマーベル・シネマティック・ユニバースから、ひとりの男が永遠に失われた。チャドウィック・ボーズマン、ブラックパンサーその人である。彼の死後から程なくして、マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギはティ・チャラの代役を立てないと発表した。ボーズマンに大いなる敬意を払っているのは伝わったが、それは前作で絶大な指示を得たあのヒーローはもう二度と現れないことも意味していた。残念であると同時に、現実問題として、ブラックパンサーの名がついたこの続編がどのような内容になれば納得できるのか、監督もキャストもファンも、誰もが頭を悩ませた。死から2年が経過した今でも、まだ喪失感を吹っ切れずにいる方は多いだろう。

劇中ではティ・チャラの死から1年が経っているが、妹シュリはやはり立ち直れないままだ。ところがそれでも地球は回っているわけで、最強の鉱石ヴィブラニウムの唯一の産出国であり、守護者を失ったワカンダは、ここぞとばかりに資源面で外国から圧力をかけられている。そんな中、シュリとラモンダ女王の前に、なぜかヴィブラニウムの鎧をまとったネイモアと名乗る男が現れる。彼は海底の、ワカンダに勝るとも劣らない超文明国タロカンの王で、同じヴィブラニウム保有国として同盟を組むよう迫ってくる。つまり、ワカンダはタロカンとともに世界と戦うか、高度なテクノロジーと強靭な体を持つタロカンの民と戦うかの選択を迫られるのだ。

『ブラックパンサー』は、いや、『ブラックパンサー』シリーズはMCUの中でも特に個性的な作品と言えるだろう。メインキャストどころか登場人物のほとんどが黒人俳優で固められ、アフリカンな原始的要素と未来的要素が有機的に融合した圧倒的なビジュアルと世界観が特徴的だ。本作では海底王国を描いているため、前作に引き続き青みがかった黒を基調とした美しい映像をしかと堪能できる。タロカンの民が青い肌をしていることもあって、12月に公開予定の『アバター：ウェイ・オブ・ウォーター』のお株を完全に奪う形になっている。ティ・チャラを含め、お馴染みのアベンジャーズは誰も登場しないが、面白さに関して心配する必要は全くない。

例外として、将来アベンジャーズのメンバーになるであろうキャラクターはひとり登場する。アイアンマン/トニー・スタークのような天才発明家、リリ・ウィリアムズだ。まだアイアンハートというヒーロー名を名乗って活動しておらず単なる学生に過ぎないが、すでに“鉄の心臓”を持った大胆不敵な少女だ。今はトラブルメーカーだが、今後はムードメーカーとなって、トニーに匹敵する存在となるかもしれない。

大切な人の死から立ち直るには時間が必要だ。本作の上映時間はMCU最長である『アベンジャーズ/エンドゲーム』の3時間1分に次ぐ２時間41分と長尺だが――、地球は回っている。これは我々が暗き喪(mourning、モーニング)から明け、新たな朝(morning、モーニング)を迎えるために必要不可欠な時間なのだ。新たなヒーローとしてのブラックパンサー、新たな映画としての『ブラックパンサー』に必要なのは、その高潔な精神性である。本作はそれを備えている。肉体を失ったティ・チャラの精神は、本作の至るところに映り込んでいる。恐ろしい高さのハードルを越えた本作の素晴らしさは、これからも語り継がれていくだろう。これで正真正銘、ティ・チャラは不滅の存在となったのだ。そう、永遠(フォーエバー)に。

【ストーリー】
ヒーロー映画として異例のアカデミー賞®３冠、作品賞も初ノミネートを果たし、全世界で社会現象となった「ブラックパンサー」の待望の続編。国王とヒーロー、2つの顔を持つティ・チャラを失ったワカンダ国に海の帝国の脅威が迫る。ティ・チャラの妹であり天才科学者のシュリたちは、この危機にどう立ち向かうのか。そして、新たな希望となるブラックパンサーを受け継ぐ者は誰なのか…。未来を切りひらく者たちの熱き戦いを描いた、ドラマチック・アクション超大作が始まる。

【キャスト】
レティーシャ・ライト、アンジェラ・バセット、ダナイ・グリラ、テノッチ・ウエルタ、ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、マーティン・フリーマン、ドミニク・ソーン　他

公式サイト：https://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther-wf

屋我平一朗

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