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『聖地X』/そこは人の形をした何かを作り出す土地。今年一番の怪作を引っさげて、日本人が“アウェー”の立場で韓国に挑む!

◆今週公開の注目作 
『聖地X』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

 

今月は新作映画のラインナップがすごい。クオリティもそうだが、特にその異質さが光る作品が毎週公開されている。従来のマーベル作品らしくない『エターナルズ』、ジェームズ・ワンが新たなホラーのビジョンを見せてくれた『マリグナント 凶暴な悪夢』、そして本作『聖地X』。この流れに邦画が入っているのは嬉しい限りだが、同時に宣伝担当者への同情を禁じえない。この作品をどう形容すれば良いのか分からないからだ。この悩みは筆者に対してもブーメランのごとく戻ってくるものではあるのだが。ホラーと言われているが、おそらく大多数が想像するようなホラーではない。どちらかと言えば、『世にも奇妙な物語』とか『トワイライト・ゾーン』でやりそうな話だ。

本作ではまず、ドッペルゲンガー的な怪異が描かれる。現実から逃げ、韓国で気ままに暮らしている輝夫のもとへ、夫婦仲が上手くいっていない妹の要がやってくる。しかしなぜか、要は韓国にいるはずのない夫、滋を目撃。追いかけて話をしてみると、どうやってここに来たのかも覚えておらず、職場に連絡すると確かに滋は出勤しているという。この奇妙な事態には、ある和食料理店が建つ土地の力が関係しているようなのだが――。

巷ではよく、世の中に自分のそっくりさんが3人いると言われる。ただのそっくりさんであれば携帯の番号でも交換して、たまに互いのフリをして過ごすなどしてみれば良いのだが、ドッペルゲンガーの場合はもっと物騒な話が付いて回る。ドイツ語で「二重の歩く者」を意味する、自分と同じ姿をしたその存在に会った者は死ぬ…らしい。「それが見えるのは腫瘍によって脳機能に異常が発生した結果なので、ドッペルゲンガーとの邂逅は死期が近いことを意味する」などとまことしやかに語られたりもする。真偽のほどは定かではないが、本作の場合はそのような予測可能なストーリーにはなっていない。

オール韓国ロケで撮影された本作。とは言え、大がかりなアクションシーンがあるわけではない。やろうと思えば日本でも十分撮れただろうし、韓国人キャストより日本人キャストの方が多い。だが、それこそ土地の力が働いているのか、韓国映画的なテイストがしっかり刻印されている。登場人物にとっては笑えない事態が起こっているのだが、観客にとっては笑うしかないのだ。そういう意味では、本作はもはやホラーではなくコメディと言ってしまっても良い。特に、要が滋とその上司、星野の関係を疑って星野に一蹴される場面があるのだが、そこでの要役の川口春奈の演技は絶品だ。

コメディという点を抜きにするとまず思い出されるのは、ナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』だ。國村隼演じる謎の日本人が韓国の田舎村を訪れてから、錯乱した村人による凄惨な殺人事件が起こり始める。同作の方がさらにホラー度が高いが、複雑怪奇な映画なのは共通している。監督自身が幼少期に住んだことがある実在の場所「谷城(コクソン)」を舞台にして、國村隼が“ホーム”であるはずの韓国人たちを翻弄していくが、『聖地X』では岡田将生をはじめとした“アウェー”の日本人たちが韓国という地に翻弄されていく。

『哭声/コクソン』を観た方が一番印象に残っているのは、やはり國村隼だろう。周り全てが韓国のものに囲まれていながら、それと互角、いや、それを上回るほどの存在感を見せていた。同作と比較すると、話の内容もさることながら、『聖地X』は途中まで韓国に飲み込まれている。間違いなく面白いのだが…、邦画でありながら「韓国映画みたいで面白い」と言われると、興味と同時に「やはり邦画は韓国映画に敵わないのだな」と複雑な思いも抱かないだろうか? しかし、終盤では邦画ならではの展開を見せ、それがさらに本作のオリジナリティを高めている。「あくまでこれは邦画なのだ」と高らかに宣言しているかのようだ。

日本人も韓国人も、ドッペルゲンガーとは言わないまでも、外見的にはそう大きく違わない。だが、邦画と韓国映画にはそれぞれ独自の面白さがあるはずだし、お互いに影響を与えつつも芯の部分は手放さずにおくべきだ。今年一番の怪作を観たはずなのに、最終的には「快作だった」という印象が残る。あなたが劇場を出た時に清々しさを感じたとしたら、それは結末が爽やかであること以上に、邦画が秘めている可能性を信じられたためなのではないか。韓国映画の隣を同じ歩幅で歩く者となれる可能性を。

【ストーリー】
小説家志望の輝夫(岡田将生)は、父親が遺した別荘のある韓国に渡り、悠々自適の引きこもりライフを満喫中。そこへ結婚生活に愛想をつかした妹の要(川口春奈)が転がり込んでくる。しかし、韓国の商店街で日本に残してきた夫の滋(薬丸翔)を見かける要。その後を追ってたどり着いたのは、巨大な木と不気味な井戸を擁する和食店。無人のはずの店内から姿を現したのは、パスポートはおろか着の身着のまま、記憶さえもあやふやな滋だった。輝夫と要は別荘で滋を捉えるが、東京にいる上司の星野(真木よう子)に連絡すると、滋はいつも通り会社に出勤しているという。では輝夫と要が捕まえた滋のような男は一体誰なのか? さらに妻の京子(山田真歩)が謎の記憶喪失に襲われた和食店の店長・忠(渋川清彦)は、「この店やっぱり呪われているかもしれません」と言い出す始末。日本人オーナー江口(緒形直人)いわく、店の建っている土地では、過去にも同じように奇妙な事件があったことがわかってくる。負の連鎖を断ち切るため、強力なムーダン(祈祷師)がお祓いを試みるも、封印された“気”の前には太刀打ちできない。この地に宿るのは神か、それとも悪魔か? 彼らはここで繰り返されてきた数々の惨劇から逃れ、増幅し続ける呪いから解放されることはできるのか!?

【キャスト】
岡田将生、川口春奈、渋川清彦、山田真歩、薬丸翔、パク・イヒョン、パク・ソユン、キム・テヒョン、真木よう子、緒形直人

【スタッフ】
原作:前川知大「聖地X」
監督・脚本:入江悠
音楽:SOIL&”PIMP”SESSIONS、海田庄吾
企画・制作プロダクション:ROBOT
配給:GAGA 朝日新聞社 
日本/カラー/114分
(C)2021「聖地X」製作委員会

公式HP:https://seichi-x.com/
公式ツイッタ-: @seichiX_movie

11月19日(金)劇場・配信/同時公開!
11月19日(金)渋谷HUMAXシネマ ほか全国ロードショー

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