MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

『X エックス』昔ながらの“Xレーティング映画”が、A24&鬼才によってこの夏必見のX(未知)の映画に!

◆今週公開の注目作

『X エックス』

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

さて、いつも健全な文章を心がけている筆者が、このような不特定多数の人の目にさらされる場所でこのようなことを書くのは少しためらわれるのだが、今回は「ポルノ」の話をしよう。そもそも、日本人ほどの「ポルノ」好きはそういない。「ポルノグラフィティ」などというとんでもない名前のロックバンドが人気なのだから。…冗談はさておき、「X」はXレーティング(成人向け)を意味する。つまり、本作もまたポルノであるわけだ。だが安心して良い。日本でのレーティングはR15+なので、15歳以上なら観られる。R指定のアメリカでは、17歳未満は親の同伴がないと観られない。確実に、親の隣で観たい映画ではない。しかし、決して観る価値のない映画ではない。

舞台は1979年。ビッグになることを夢見ている売れない女優のマキシーンは、ポルノ映画『農場の娘たち(The Farmer’s Daughters)』の撮影のためクルー5人とともにテキサス州の農場を訪れる(1976年には実際に同題のポルノ映画が公開されたようだ)。『悪魔のいけにえ』ならここで食人一家に襲われるところだが、本作は違う。何と、殺人鬼は仲睦まじい老夫婦なのだ。人を食ったような設定だが、これがむしろ言いようのない気色悪さと味わいを生み出している。

老夫婦のうち特に印象的なのが、奥さんの方のパールだ。言い方は悪いが、今の姿は飾られている若き頃の写真とは程遠く、衛生的とも言えない。それでも、毎日のように心臓が弱い夫のハワードの体を求めては、病気を理由に断られ満たされない日々を送っている。ここまで生々しい背景を背負った殺人鬼がこれまでいただろうか? 真珠は「人魚の涙」とも呼ばれる美しい宝石で、「長寿、健康、富、無垢」などの石言葉を持っている。しかし、垢がつけば簡単にその美しさは失われてしまう。もし、「健康、富、無垢」を失い、人魚のような「長寿」さだけを残して泣き濡れるだけの人生を歩む羽目になってしまったら? 彼女を醜く感じるのは、自分がなりうる最悪の可能性だからではないか?

若さに執着し、精を吸い取ろうとするかのごとく、農場を訪れる若者たちを殺しているサキュバスのようなパールと対照的に描かれているのがマキシーンだ。パールが過去ばかり見ている左向き(<)の存在ならば、生/性を謳歌し、未来への希望に満ち溢れているマキシーンは右向き(>)。2つを合わせるとXとなるように、この2人が本作の大きなテーマと言って良いだろう。「“Xファクター(特別な才能)”がある」と褒められているマキシーンだが…、この手の映画で伝統的に生き残る“ファイナルガール”は、性に疎い女の子だ。しかし、本作の主人公はよりにもよってポルノ映画のクルー。最後に生き残る人物=Xは果たして誰なのか。そして、何本の“X”字架が建てられるのか。

手垢のついた昔懐かしのエログロホラーに新たなテーマを込めて磨き上げきらめく真珠へと変えたのは、低予算ホラーで名をあげたタイ・ウェスト監督。今や大人気のA24が製作している本作でも、若い頃に培われたのであろう見せ方の多彩さで楽しませてくれる。ちなみに、A24は2012年設立なので、今年で10(ローマ数字でX)年目だ。節目にふさわしい本作はすでにA24作品で初となる3部作シリーズ化が決まっており、次回作のタイトルは『Pearl(パール)』。パールの若かりし頃を描く前日譚となるようだ。本作が公開されて2週間はエンドロール後にその特報がつくようなので、本編が終わった後もゆっくり余韻に浸っているのが良いだろう。映像を待つ間にクレジットの1行目を確認しておくのもお忘れなく。

【ストーリー】
1979年、テキサス。女優のマキシーンとそのマネージャーであるウェイン、ブロンド女優のボビー・リンと俳優のジャクソンは自主映画監督の学生RJと、その彼女で録音担当の学生ロレインと映画撮影のために借りた農場へ向かう。映画のタイトルは「農場の娘たち」。この映画でドル箱を狙う――6人の野心はむきだしだ。農場で彼らを待ち受けたのは、みすぼらしい老人ハワード。彼らを宿泊場所として提供した納屋へ案内する。一方、マキシーンは、母屋の窓ガラスからこちらを見つめる老婆と目が合ってしまう……。

【キャスト】
ミア・ゴス、ジェナ・オルテガ、ブリタニー・スノウ、スコット・メスカディ(キッド・カディ)、マーティン・ヘンダーソン、オーウェン・キャンベル、ステファン・ウレ

【スタッフ】
監督・脚本:タイ・ウェスト

提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:X|R15+|2022年|アメリカ映画|上映時間:105分
©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
公式HP:https://happinet-phantom.com/x/
公式twitter:@xmovie_jp

7月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

 

関連記事

A24『X エックス』デザイナー大島依提亜&映画ライターSYO登壇、試写会トークイベントレポート「誰もが気軽に楽しめる最高の映画」

セバスチャン・スタン、A24の奇妙な新作スリラー『A Different Man(原題)』に出演決定!

A24最新作『Men(原題)』のアレックス・ガーランド監督、アニメ『進撃の巨人』から影響を受けたと語る!?

A24が北米配給権を獲得!禁断のネイチャー・スリラー『LAMB/ラム』今秋公開決定&特報映像解禁!

バックナンバー