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『プレゼンス 存在』ゴースト・ストーリーならぬ、“スペクター・ストーリー”。

◆今週公開の注目作

『プレゼンス 存在』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ホラーは、最もアイディア勝負の映画ジャンルかもしれない。他とは一味違う発想があれば、低予算でも怖くて面白い作品が作れる。本作『プレゼンス 存在』も、そういった映画のひとつだ。メガホンを取ったスティーヴン・ソダーバーグは『オーシャンズ』シリーズで有名だが、今では知る人ぞ知る監督のような立ち位置になってきている気がする。しかし実際は、名前が非常に似ているスティーヴン・スピルバーグ監督のように、次々に様々なジャンルの映画を撮り、ほぼ毎年新作を発表している。作品数やそのクオリティからするとすでに巨匠と呼んで良いほどの“存在”だが、フットワークの軽さが彼を実年齢の62歳よりもずっと若々しく感じさせているのではないだろうか。本当は2013年の『サイド・エフェクト』と『恋するリベラーチェ』を最後に引退を表明していたが、『オーシャンズ』シリーズを彷彿とさせる2017年の『ローガン・ラッキー』で復帰し、それからはノンストップで活動中だ。

巨匠らしい大作主義には走らず、2018年にはスリラー『アンセイン ~狂気の真実~』を全編iPhone撮影で完成させてしまった。その後は本作までの間に6本も映画を撮っている。日本では、『アンセイン』含め複数の作品が劇場公開されず配信やソフトでしか見られない状況にあるが、気軽にアクセスできるところもソダーバーグらしいだろうか。さて、では今週から劇場公開される『プレゼンス』はどうなのかというと、主人公の顔どころか姿形が全く映らない映画になっている。どういうことか? 完全に主人公の主観視点(目線)から描かれているのだ。故に、自分の姿は映らない。まあそれだけなら、そんなに珍しくはない。ところが、主人公が鏡を覗くシーンですら何も映らない。透明人間? ある意味そうだが、家の中を移動しても廊下や階段は一切軋まないし、視線はふわふわと宙に浮いているかのよう。そう、主人公はある家に憑いている幽霊なのだ。

描かれるのは、幽霊がいる家に引っ越してきた4人家族の会話やケンカの全て。普通のホラーならば幽霊をこそ映すだろうが、本作で映っているのは人間のみだ(一応、全編幽霊視点の映画は2012年の『私はゴースト』など他にもある)。そういう意味では、直接的な恐怖シーンはあまりない。本作をホラーと捉えない方もかなりいそうである。しかし、主人公を幽霊にしている時点で、本作で幽霊は恐怖の対象ではなく、感情移入の対象なのは明白だ。観客は家族の中で浮いている長女クロエに興味を示す幽霊の正体について考えながら、幽霊とともにクロエを見守ることになる。そこで気づくのだ。この幽霊視点とは、普段映画を傍観している我々の視点そのものであり、クロエに何が起ころうと介入できない絶望的な立場であると。見守るどころか、見殺しにするしかできない無力な“存在”だと。そのため、幽霊の方が恐怖を感じている奇妙なホラーとも言えるかもしれない。

ホラー映画の中に数え切れないほど登場してきた幽霊とは、一体何なのだろうか。本作の幽霊を、筆者は「ゴースト」ではなく「スペクター(specter)」と呼びたい。日本語訳すればどちらも幽霊には違いないが、スペクターは「見る」「見えるもの」を意味するラテン語から派生した言葉だ。普段は見えないが時たま現れ、そして自身も「見る」ことしかできない。過去も未来もない、「現在(プレゼント)」だけを見つめ続ける存在(プレゼンス)。この幽霊が幽霊として“生まれ”た意味や、未だ死ぬに死ねない理由が判明し、これまでの制約、見事ながらも窮屈なカメラワークから解放される時、あなたはおよそホラーには似つかわしくない爽やかさを覚えるだろう。それはソダーバーグから我々ホラーファンへ向けられた、思わず“昇天”したくなるほどのとびきりのサプライズプレゼントだ。五感が生きているうちに味わおう。

【ストーリー】
[それ]は、一家が引っ越してくる前からそこにいる。[それ]は人に見られたくない家族の秘密を目撃する。母親にも兄にも好かれていない10代の少女クロエに異常なまでに親近感を持つ。彼女に何かを求めているのか、いや、必要としているのか。家族と一緒に過ごしていくうちに、[その存在]は目的を果たすために行動に出る。

【キャスト】
ルーシー・リュー、クリス・サリヴァン、カリーナ・リャン、エディ・メデイ、ウェスト・マルホランド 他

【スタッフ】
監督:スティーヴン・ソダーバーグ

 

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