MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

【今週公開の注目作】『ロードゲーム』 ただの真っ直ぐな一本道が、曲がりくねった脱出不能の迷路に変わる。44年越しのオーストラリア産未公開映画、これはもう1つの“マッドマックス(狂気全開)”だ!

◆今週公開の注目作

『ロードゲーム』
10月31日(金)よりシネマート新宿ほか、全国順次日本初公開

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ここ最近よくある、数十年前のホラー・スリラー系未公開映画が日本初公開となる流れ。これが毎年の恒例イベントのように定着し、知ってはいても見る手段がほぼない、またはそもそも存在を知らない良作に出会えるようになったことを筆者は大変嬉しく思っている。今回、オーストラリア本国での公開から44年が経って日本初公開されるこの『ロードゲーム』に関してもそうだ。本作は筋書きがシンプルすぎるにもかかわらず、そのあまりの上手さ……いや、美味さと面白さに思わず唸ってしまった。

物語の大筋はこうだ。冷凍された豚肉を遠方の街へ届けるため、昼夜問わず何もないオーストラリアの荒野をトラックでひた走る主人公の長距離ドライバー、クイッド。彼は相棒のディンゴ(犬に似た生物)に話しかけながら陽気に仕事をこなしていたが、たまたま見かけた女性ヒッチハイカーが殺害されたと報じるラジオを聞いてから、彼女が乗り込んだバンは殺人鬼のものだったのではと疑心暗鬼になる。かくして巨大トラックは、証拠もないままに暴走する妄想に引きずられながら荒野を疾走していく……。

目的地の町を目指しながら、犯人らしき男を追いかける。はっきり言うと、それだけの話である。サスペンスが生じるギリギリの設定の上に、同じオーストラリア(・アメリカ)映画の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が“行って、戻って来る”という単純な構造の作品だったのに対し、『ロードゲーム』の方は“行く”だけだ。しかも、『マッドマックス』の世界同様、オーストラリアの荒野には本当に何もない。どこまでも余計なものを削ぎ落とした、脂身も旨味もなさそうな内容に聞こえるだろう。それなのに、中々どうして、本作は非常に美味なのだ。

あらすじを聞くと、最初に述べた未公開映画たちのように異常で猟奇的な色合いの強い作品と思われるかもしれない。しかし、映画の大半の部分はクイッドと同じく陽気だ。妙に能天気な音楽や、クイッドのユーモラスで気の抜ける独り言(“会話”と呼ぶべきか?)、途中で出くわすクセの強すぎるドライバーたちのおかげで、コミカルなロードムービーにも見えてくる。途中で乗せることになるヒッチハイカーたち、特にジェイミー・リー・カーティス演じる女性とのロマンスめいたやり取りなど、心温まるシーンも多い。ところが、突如挟み込まれる犯人(とクイッドが思い込んでいる男)の影がちらつく場面は、ホラーとしか形容できないほど凍てつく恐怖に満ちている。切れ味鋭い編集に、粟立った我々の肌は切り裂かれる。

また、前半は好意的に見られたクイッドの独り言も、後半はだんだん狂気を帯びてくる。そもそも彼がこれだけ独り言を言うのは、そうでもしないと耐えられない退屈さの裏返しなのだろう。何十、何百キロも代わり映えしない風景を何日も眺め続けるなど、あまりの刺激のなさに本当に幻覚を見てしまいそうだ。自分の心の声すらも貴重な話し相手となり、疑念は終わりなきループへ突入する。怪物と闘う者は、自らも怪物に変わり果ててしまう危険性を孕んでいるのだ。次第にクイッドも他人から懐疑の目で見られ始め、追っていたはずが徐々に追い詰められていく。そう言えば、豚と人間の臓器は移植の研究がされているほど似ているらしいではないか。吊るされた豚の白い肌。剥き出しにされた赤いあばら。今日は生きていたのに明日は食肉となり食卓に並ぶ。人間が同じ道を辿らない保証はどこに? 町までの長い長い一本道はクイッドの未来の暗示か? このゲームにおける“ゲーム(獲物)”は誰か? ……実は本作はすでに配信されてもいるのだが、劇場で衝撃を受けるべきだろう。『激突!』よろしく、トラックに轢き潰されるような衝撃を。

【ストーリー】
何もないオーストラリアの荒野。たった一人で冷凍した豚の死体を運ぶ長距離トラック運転手クイッドは、ある日女性ヒッチハイカーを乗せた緑色のバンを目撃する。だがその後、その女性がバラバラ殺人の被害者として発見されたとき、犯人を確信したクイッドはバンの追跡を開始。孤独な車内で膨らませた妄想に駆りつかれ、幻覚を見るようになり、癖である独り言に拍車がかかった。そしてあろうことか、その行動によりクイッドは疑いの目を向けられるようになり、信じがたい状況に追い込まれていく――。

【キャスト】
ステイシー・キーチ、ジェイミー・リー・カーティス 他

【スタッフ】
監督:リチャード・フランクリン

© 1981 STUDIOCANAL – Quest Films Pty Ltd. All Rights Reserved.

公式サイト:https://roadgame.jp/

 

関連記事

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』直に失われるとしても、それを守らない理由にはならない。

『プレゼンス 存在』ゴースト・ストーリーならぬ、“スペクター・ストーリー”。

『プロジェクト・サイレンス』国家の犬 VS 改造暗殺〇〇! 本当の獣はどっち?

『セブン』4K版|神は言った、「光あれ」と。しかし長雨の都会にその光は届かない。

『SKINAMARINK/スキナマリンク』目を凝らしても見えないのに、目を閉じても視える。

バックナンバー