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『VORTEX ヴォルテックス』静かに、でも確実に、破滅が迫る。ギャスパー・ノエの新境地かつ集大成的傑作誕生。

◆今週公開の注目作

『VORTEX ヴォルテックス

文:大西D(ヒカセン兼業ライター)

ギャスパー・ノエと言う監督は常に「暴力」や「セックス」と言った、非常に過激なテーマを、過激な手法で描いてきた。世界には様々なタイプの映画監督が存在するが、最も挑発的な作品を生み出してきたのは、ギャスパー・ノエと言えるだろう。そんな彼の映画は先述の通り、過激なものが多く、かなり「動」な作品のイメージだ。そんな監督が世に放つ最新作『VORTEX ヴォルテックス』はそれとは全く正反対の「静」の映画だ。

本作で描かれるのはある老夫婦が死を迎えるまでの数日。「夫」は映画評論家で、心臓病を患っている。「妻」は認知症だ。彼らの数日を前作『ルクス・エテルナ』でも利用したスプリットスクリーンで描いている。2つの画面で、それぞれの人物が何をしているのかがリアルタイムでリンクしており、こうすることで妻と夫が抱えている病や問題をよりリアルに感じることが出来る。彼らはもはや自分たちだけで生活をしていくことは困難な状況であり、息子にも頼らなければいけない状況だ。

人は老いていく。これは避けることが出来ない自然の摂理だ。老いれば当然様々な病に罹るし、子供の手も借りなければなるまい。ギャスパー・ノエの映画は暴力やセックスを描くことで、観客をある種の異世界に放り込む作品が多かった。例えば『CLIMAX』では大勢のダンサーがLSDに狂い、地獄のような、だけどどこか快楽に近い感覚を観客にも感じさせるような作品だった。しかし、本作はそういった、これまでの作品群とは全く異なる。どこまでも生々しく、目を背けたくなるほどに「現実」だ。静かに迫る「死」という破滅を、避ける術は存在しないと、この映画はまざまざと見せつける。

そして最大のサプライズは、やはりキャスティングだろう。夫を演じるのはイタリアが生んだ巨匠ダリオ・アルジェントだ。本作の夫は映画評論家だが、実はアルジェントも映画評論から映画監督になった経緯がある。役にハマった経歴を持っているとはいえ、まさかダリオ・アルジェントを主演にするとは、普通であれば思いつかないだろう。アルジェントは作品に違和感無く存在しており、正直言って途中から夫が「ダリオ・アルジェント」であることを忘れさせてくれるほどだ。ダリオ・アルジェント映画のファンも必見の、熱演である。

前作『ルクス・エテルナ』公開時にインタビューをさせて頂いたのだが、過激な作品とは裏腹に、ギャスパー・ノエという映画監督は非常に気さくで、何よりも映画が本当に大好きで、1の質問に対して10の答えを返してくれるような監督だ。そんな彼も、もうすぐ60歳。もう若くはない。つまりこの作品は、彼自身の未来でもあるのだ。誰にも訪れる破滅の時。それを避ける術は絶対にない。本作を製作するきっかけとして、彼の家族に起きたことや、彼自身が脳出血で生死の境を彷徨ったこともあるという。そう考えると、彼がこの映画を作るのは必然と言えるだろう。

誰もが目を背ける「病」や「死」という、いずれ自身に起こる現実。それを静かに突き付けてくるこの映画は、確かにギャスパー・ノエの新境地である。しかし一方で、そういった生々しいリアルを見せる様は、過激で挑発的とも言える。そう考えると本作はギャスパー・ノエの「新境地」であり「集大成」とも言える映画だ。これは是非とも観て頂きたい1本である。

【あらすじ】
作家である夫と元精神科医で認知症を患う妻。離れて暮らす息子は2人を心配しながらも、家を訪れ金を無心する。心臓に持病を抱える夫は、日に日に重くなる妻の認知症に悩まされ、やがて、日常生活に支障をきたすようになる。そして、ふたりに人生最期の時が近づいていた…。

 

監督・脚本:ギャスパー・ノエ
キャスト:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ
2021 年╱フランス╱フランス語、イタリア語/148 分/カラー/スコープサイズ╱5.1ch╱原題:VORTEX/字幕翻訳:横井和子
提供:キングレコード、シンカ
配給:シンカ
© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE – KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA

公式HP:https://synca.jp/vortex-movie/
公式 X:@vortexmovie_jp

12月8日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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