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『灼熱の魂 デジタル・リマスター版』観る者の心を焼き焦がす、ドゥニ・ヴィルヌーヴの珠玉の傑作が今ここに蘇る。

◆今週公開の注目作

『灼熱の魂』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

本作は新作ではなく、日本では2011年に公開された作品のデジタル・リマスター版だ。監督は、今となっては『ブレードランナー 2049』や『DUNE/デューン 砂の惑星』などのSF映画のイメージが定着したドゥニ・ヴィルヌーヴ。本作の次に手がけたヒュー・ジャックマン&ジェイク・ギレンホールの『プリズナーズ』でハリウッドデビューしたので、まだそれほど名が知られていなかったころの作品だが、一度観てみれば二度と忘れられない体験をさせてくれる。

『灼熱の魂』は複雑かつショッキングなミステリーだ。双子の姉弟が、存在を知らない兄と父への二通の手紙を遺して死んだ母親の過去に迫っていくのだが、これが非常にヘビーな展開になる。劇中で明言はされないが、母ナワルの故郷はレバノンだ。キリスト教徒として育った彼女は若い頃、宗教的に対立しているイスラム教の男性と子供を作ってしまい、そこから憎悪の連鎖がスタートしてしまう。生まれた子どもが送られた孤児院はイスラム教徒に襲撃され、子どもはそのまま行方不明になってしまうし、ナワル自身はキリスト教徒のテロによって命を奪われかける。

どちらが善でどちらが悪かも分からない中、運命に翻弄され続けたナワルの人生を追う双子の旅は、文字通り地獄巡りのようなものだ。「衝撃のラスト」という謳い文句は今では使い古されているが、そういって紹介される作品の中でも本作は最大級の衝撃をもたらすだろう。ミステリーだけに、真相が徐々に明らかになっていく度に快感を覚える部分はあっても、最後には「知らない方が良かった」と思ってしまうかもしれない。正直に言って、「エンターテイメント」とは形容しづらい作品だ。

『プリズナーズ』は、子ども思いの父親が犯人らしき者を拷問する話だった。本作で母親が双子に託した願いも、場合によっては呪いになりうる。ヴィルヌーヴ作品では、登場人物の行動を一言で判断することが難しい。しかし、実際のレバノン内戦をテーマにしているだけに、同じような過去を背負った人々はいたのかもしれない。原題の「Incendies」には「火事、戦火」などの意味があるが、炎上するバスや瓦礫の山のシーンはデジタル・リマスターで美しくもより虚しさを感じる映像に生まれ変わっている。

ナワルの憎悪に燃え盛る魂は、あるシーンから鎮火に向かっていく。人生が終わりに近づいていくことにもなるのだが、そこに関係しているのは水だ。憎悪の連鎖を止めるには全てを焼き尽くすのではなく、「水に流す」…、それしかないのかもしれない。暑い最中、さらに熱い思いに触れてみるのも貴重な体験になるのではないだろうか。

【ストーリー】
初老の中東系カナダ人女性ナワル・マルワンは、ずっと世間に背を向けるようにして生き、実の子である双子の姉弟ジャンヌとシモンにも心を開くことがなかった。そんなどこか普通とは違う母親は、謎めいた遺言と二通の手紙を残してこの世を去った。その二通の手紙は、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった兄と父親に宛てられていた。遺言に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、母の数奇な人生と家族の宿命を探り当てていくのだった……。

【キャスト】
ルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモー=プーラン、マキシム・ゴーデット 他

【スタッフ】
監督・脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:ワジディ・ムアワッド『焼け焦げるたましい』

公式サイト:https://incendies-movie.com/

 

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