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【今週公開の注目作】『層間騒音』 叶うなら、いっそこの耳を切り落としてしまいたい。

◆今週公開の注目作

『層間騒音』
10月10日(金)新宿武蔵野館・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国ロードショー

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「層間騒音(そうかんそうおん)」。個人的には全く聞き馴染みのない、そしておそらくはあなたにとっても同じであろうこの言葉が本作の邦題に据えられているのは、とても素晴らしいことだと思う。層間騒音(韓国語で「チュンガンソウム」)とは「住宅の別の階(=層、チュン)から発せられた騒音」を意味するらしく、分かりやすい例で言えば上の階から聞こえる足音などがそうだ。調べてみると、層間騒音は韓国の社会問題でもあり、これが原因で殺人事件にまで発展したケースもあるという。当然日本にもある問題ながら、同義の言葉はないだろう。本作はまさにそれをテーマにしているわけだが原題は「ノイズ」なので、これ以上ないほど適切な語をきちんと選び出して付けられた邦題なのだ。余談だが、韓国映画は独特な邦題が多く、そのある種の“直訳感”はポスターや予告などなくとも自身が韓国映画であることを声高に主張するので筆者は好きだ。本作の場合は実在する語を拝借しているが、結果的に実に韓国映画らしい邦題になっている……さて。

 

音は、ホラーとは切っても切れない関係にある。大きな音で驚かすだけの映画を筆者はホラーとは呼ばないけれども、音を効果的に用いて観客を震え上がらせるのはホラーの常だ。画面に何も映っていなくても、小さなノイズでも鳴っていればそこにはきっとナニカがいる。「気配」の正体は微弱な電気の膜とする説もあるが、少なくとも映画においては音だろう。本作は、非常にJホラー的な雰囲気をまとっている。今年の最恐ホラーにセレクトする方もいるかもしれない。それほどに、音が観客の神経をすり減らす。黒板にするように、爪に鼓膜を直接引っ掻かれている感覚。言葉の意味とは矛盾するが非常に気味の悪いASMRとも言える。主人公のジュヨンに聴覚障がいがあるという設定からして、後々の不吉な展開が容易に想像できる。

ジュヨンは姉妹の姉で、元々は妹のジュヒと集合住宅で暮らしていた。しかしある時からジュヒはジュヨンには聞こえない音に苦しめられ、精神に異常を来していく。一旦距離を置いたジュヨンが久々にジュヒを訪ねると彼女は失踪しており、ジュヒの部屋から出ている騒音に気が狂いそうになっている男も現れ、ジュヨンは事の真相を突き止めようと部屋に泊まるが……。ホラーで最も怖いのは決定的な何かが起こっている最中ではなく、次の瞬間にそれが起きるのではと予感させる緊張が続いている時間だ。今にも銃弾が飛び出しそうな銃口を頭に突き付けられている時が一番怖いのだ。本作は音に特化した作品であるため、画面では何も起きていないシーンが多いが、気配は常にそこにある。静かな場面で本来鳴ってはいけない音が聞こえる度に、我々は気持ちと裏腹に集中せざるを得ない。痛覚と同じ、この忌避すべき醜悪な音だけが今や我々に危険を知らせる信号なのだ。そして、銃口を穴があくほど凝視したところで眉間を撃ち抜かれる。

ちなみに、筆者も層間騒音の被害にあったことがある。昔実家でリフォーム工事が行われたのだが、2階で布団を敷いて寝ようとした際、身体を横向きにすると耳が布団に押し付けられ、床に伝わる音が聞こえてきた。深夜にもかかわらず、なぜか、誰かが作業をするようにハンマーを叩く音が瓦礫で散らかった1階で鳴っていた。日常生活で他の部屋から物音が聞こえたら、一度疑ってみなければいけない。そこには本当に誰かがいるのか? いるのは本当に人間か? そして、音は本当にその部屋から鳴っているのか? 筆者は、1階を見には行かなかった。でも、答えはきっと知らない方が良い。

【ストーリー】
聴覚障がいを持つソ・ジュヨンはある日、妹のジュヒが住んでいた団地から突然失踪したと知らされる。 2人は以前一緒に暮らしていたが、ジュヒは騒音が聞こえると言い始め、ジュヨンには補聴器を付けてもその騒音が聞こえず、食い違いから喧嘩になったきり会っていなかった。ジュヒの部屋に入ると天井にはびっしりと防音シートが敷き詰められていた――直後、尋ねてきた隣人に「夜は静かにしてもらえますか、これ以上うるさくしたらその口を裂く」と脅される。しかし、ジュヒが失踪した後の部屋には誰も居ない…。妹が見つかるまで部屋に泊まる事にしたジュヨンは、補聴器を介して奇妙な音が聞こえ始める。やがて音だけでなく何かの存在も感じるようになり…これらは妹の失踪に関係しているのか、それとも――。

【キャスト】
イ・ソンビン、キム・ミンソク、ハン・スア、リュ・ギョンス、チョン・イクリョン 他

【スタッフ】
監督:キム・スジン

 

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