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『ソフト/クワイエット』“白人の罪”を洗い流せ。「差別すること」の胸糞悪さをハード&ラウドに疑似体験させる人種差別ホラー!

◆今週公開の注目作

『ソフト/クワイエット』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

映画はエンタメだ。それには多くの方が賛同するだろう。エンタメは楽しいものだ。それにも多くの方が賛同するだろう。全く間違っていない考えだ。しかし実際は、本来毒の味である苦味のするコーヒーを好む人が多いように、不愉快に感じる映画にすら楽しめる余地がある。…いや、少し語弊があるかもしれない。少なくとも、本作『ソフト/クワイエット』を見ている間は、楽しさなど微塵も感じない。ただし、見ごたえのある作品を欲しているのなら、間違いなく見て損はない。鑑賞後のその日の気分は台無しになるかもしれないが。

本作は人種差別を扱ったホラー・スリラーである。人種差別ホラーは、最近本格的に確立されてきた新ジャンルと言えるだろう。この流れを牽引しているのは『ゲット・アウト』などのジョーダン・ピール監督だが、それらの作品は基本的に黒人差別を扱っている。しかし、アメリカで差別されることがあるのは何も黒人だけではない。アジア人もだ。黒人によるアジア人差別の報道さえある。では、立場の強さは「白人>黒人>アジア人」という風になっているのか? 事態はもっと複雑で、最近では差別に直接加担していなくとも、むしろ白人であるというだけで加害者と責められたり、罪の意識を感じたりする場合もあるようだ。アメリカは“人種のるつぼ”と形容されるだけあり、現在の人種問題は渦を巻き、もうどこをスタートでどこをゴールとすべきかも分からない。

差別を描く多くの作品と違い、本作の主人公は被害者ではなく加害者。幼稚園教師のエミリーを中心とした白人女性の集団だ。一見するとシスターフッド(女性解放のための女性同士の連帯)のようだが、実際は全く違う。彼女らは鉤十字で繋がっている。世の中の多様性重視の流れのせいで白人が逆差別を受けていると感じ、身の毛もよだつナチス的な白人至上主義を掲げて白人の復権を望み、そして白人男性を支えるのが最上の喜びと信じている。ただし彼女らとて、そのようなことを声高に主張すれば糾弾されるのは自分たちの方だと分かっている。だからこそ、行動はソフトに、クワイエットに起こさなければならない。“白人(ホワイト)の罪”とやらを洗い流して(ウォッシング)。

…とは言え、所詮はただの一般人。勢いで、アジア系の姉妹に対して目を背けたくなるような犯罪行為を働くが、当然のごとく事態が悪化していく様はもはや滑稽だ。しかし、カメラは常にエミリーらの側から離れず、しかもワンカットに見えるように編集されている。アジア人の我々も、その場にいてアジア系へのいじめに加担しているような臨場感たっぷりの体験を強いられる。笑えない冗談だ。監督のベス・デ・アラウージョは中国とブラジルの血を引いたアメリカ人で、有色人種として差別も受けてきた。劇中の被害者と重なるように、彼女にも妹がいる。経験を基にしているだけあって、本作はエンタメと呼ぶには少し気が引けるも、確かに興味深い内容になっている。

ここまで「人種」というものが存在するように話してきたが、学生時代の生物の授業を思い出してみると、現在の人類は全員「ホモ・サピエンス・サピエンス」に分類される。そういう意味では、「人種」など存在しない。肌の色は「人種」で大きく異なるが、それは肌に含まれるメラニンの量の違いであり、質の違いではない。これまで多くの人が「人種」と思ってきた何かは、生まれつきではなく環境的に形作られたものにすぎないのかもしれないのだ。“目に見えるものが全てではない”。差別されることのある我々アジア人も、誰かを差別してしまう可能性はある。加害者視点を疑似体験させてくれる本作の鑑賞はきっと不愉快ながらも、差別することの胸糞悪さを、忘れられない記憶として心に刻ませてくれるだろう。

【ストーリー】
とある郊外の幼稚園に勤める教師エミリーが、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成する。教会の談話室で行われた第1回の会合に集まったのは、主催者のエミリーを含む6人の女性。多文化主義や多様性が重んじられる現代の風潮に反感を抱き、有色人種や移民を毛嫌いする6人は、日頃の不満や過激な思想を共有して大いに盛り上がる。やがて彼女たちはエミリーの自宅で二次会を行うことにするが、途中立ち寄った食料品店でアジア系の姉妹との激しい口論が勃発。腹の虫が治まらないエミリーらは、悪戯半分で姉妹の家を荒らすことを計画する。しかし、それは取り返しのつかない理不尽でおぞましい犯罪の始まりだった……。

監督・脚本:ベス・デ・アラウージョ(長編デビュー) 
出演:ステファニー・エステス、オリヴィア・ルッカルディ、エレノア・ピエンタ、メリッサ・パウロ、シシー・リー、ジョン・ビーバース
2022年/アメリカ/英語/92分/16:9/5.1ch/原題:soft&quiet/日本語字幕:永井歌子/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム/G

© 2022 BLUMHOUSE PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:soft-quiet.com

5月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

 

【インタビュー】『ソフト/クワイエット』ベス・デ・アラウージョ監督(前編)|襲われる被害者ではなく、襲う加害者を描いたスリラー!?嫌悪感たっぷりな怪作はどうやって生まれた?

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