MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

『バビロン』名作か迷作かなんてもはやどうでも良い!めくるめく“2023年映画の旅”へ。

◆今週公開の注目作

『バビロン』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

本作はまさにその『バビロン』というタイトルにふさわしい、間違いなく今年で一番どうかしている映画だ。バビロンは古バビロニア帝国の首都で、かつて世界最大の都市だった。そして、新約聖書の中では邪悪な場所の象徴とされている。映画監督ケネス・アンガーが著した『ハリウッド・バビロン』では、20世紀前半のハリウッドの醜いスキャンダルがこれでもかと取り上げられている。その全てが正しいのかどうかには疑問の余地があるが、本当にあってもおかしくないようなことばかりだ。サイレント期のハリウッドは確かにバビロンだった。聖林(ハリウッド)? いや、酒池肉林だったのだ。

バビロンが登場するサイレント映画として有名なのはD・W・グリフィス監督の『イントレランス』(1916)。これはバビロン篇を含む4つの時代のエピソードを「不寛容(イントレランス)」というテーマを軸に同時並行的に描いた、当時では前代未聞の形式の超大作だった。本作もまた、サイレント期からトーキー移行期のハリウッドが舞台の超大作だ。主人公は実在した俳優たちをモデルにした、サイレントのスターであるジャック(ブラッド・ピット)、ひょんなことから新人女優としてデビューするネリー(マーゴット・ロビー)、何としても映画に関わる仕事に就きたいメキシコ系の青年マニー(ディエゴ・カルバ)の3人で、彼らのドラマが同時進行する。ピットとロビーは1969年のハリウッドを描いた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも共演しているのが面白い。

『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルが、再び“LA LA LAnd”ことロサンゼルスのハリウッドを舞台に夢追い人たちを描くのだから、きっとこの上なく切なくて美しい作品なんだろう…と思ってはいけない。ラ・ラ・ランドはかつてバビロンだったのだ。本作は、期待する観客の顔に挨拶代わりに汚物をぶっかける。そこからは3時間ノンストップ…いや、正しくは不規則に急発進・急ブレーキを繰り返す危険運転に付き合わされることになる。エチケット袋が必要かもしれない。おそらく、チャゼルは“よくできた映画”を作ろうなんて全くしていない。『バビロン』は非常に俗悪で退廃的で、チャゼルがこれまでで最もやりたい放題した結果の産物。「何と形容して良いか分からないが、何だかすごいことは分かる」…そんなシロモノだ。

CGもない時代、戦争映画を作ろうとすれば本当に戦争を撮るしかない。だから、劇中でも映画の撮影中に人が死ぬ。しかし監督が出す指示は「カメラを止めるな!」だ。『ラ・ラ・ランド』では「ちょっとの狂気が成功のカギ」と歌われるが、『バビロン』でちょっとしかないのは正気の方である。だが、チャゼルにとって映画は人間を、少なくともチャゼル自身を進化させてきたものなのだろう。スクリーンはさしずめ横倒しのモノリス。ラストでは『2001年宇宙の旅』的としか言えない、めまいがするほどの情報の渦に観客を巻き込む。

ストーリー的には、映画の最初に映るパラマウント・ピクチャーズのロゴである山を見れば分かるように、同じスタンリー・キューブリック作品で言えば『バリー・リンドン』的な栄枯盛衰譚だ。しかし、夢見た貴族となりながらもやがて全てを失ったバリー・リンドンと違い、スターたちは映画という骨を残した。この骨はこれからもまた人を殺し、人を進化させていく。本作がトーキー版『イントレランス』なのか、チャゼル版『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』なのか、“2023年宇宙の旅”なのか、ただの悪趣味な乱痴気騒ぎなのかは、この豪華絢爛阿鼻叫喚の万華鏡を覗いたあなたにしか分からない。

【ストーリー】
1920年代のハリウッドは、すべての夢が叶う場所。サイレント映画の大スター、ジャックは毎晩開かれる映画業界の豪華なパーティの主役だ。会場では大スターを夢見る、新人女優ネリーと、映画製作を夢見る青年マニーが、運命的な出会いを果たし、心を通わせる。恐れ知らずで奔放なネリーは、特別な輝きで周囲を魅了し、スターへの道を駆け上がっていく。マニーもまた、ジャックの助手として映画界での一歩を踏み出す。しかし時は、サイレント映画からトーキーへと移り変わる激動の時代。映画界の革命は、大きな波となり、それぞれの運命を巻き込んでいく。果たして3人の夢が迎える結末は…?

【キャスト】
ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、エリノア・セント・ジョン、ジョヴァン・アデポ、リー・ジュン・リー、トビー・マグワイア 他

【スタッフ】
監督・脚本:デイミアン・チャゼル

配給:東和ピクチャーズ 
(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:babylon-movie.jp

バックナンバー