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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』マルチバース設定はヒーロー映画の特権じゃない。何でもありのカオスに飲み込まれろ。

◆今週公開の注目作

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

最近、「マルチバース」という言葉がよく使われる。これは特にマーベル映画に顕著だが、要するに我々が生きている“この”世界と別に、似て非なるいくつもの世界がある、という概念だ。「パラレルワールド」の考え方に近い。宇宙や世界のことを英語で、最近では「世界観が統一された作品群」をも指すようになった「ユニバース」という言葉で呼ぶ。「ユニ」はユニフォーム(統一された服装)の「ユニ」と同じで、「ひとつ」の意味だ。それに対し、「マルチ」は「多」。通常、見聞きも行き来もすることはできないが存在する。それがマルチバースだ。様々な映画を見ていると、同じ俳優が全く違う人物を演じているのが確認できる。これは、擬似的に神の目線でマルチバースを俯瞰しているようなものだ…と言えるかもしれない。

宇宙はまた「コスモス(秩序)」とも呼ばれるわけだが、それらが集まるとカオス(混沌)になる。まさに本作はそんな映画だ。製作はそれこそマーベルの『アベンジャーズ/エンドゲーム』などを手がけたルッソ兄弟が務めているが、正直本作のマルチバース描写はマーベルよりエキサイティングかもしれない。中国からの移民で中年女性のエヴリンは税金の支払いに追われ、夫ウェイモンドとの愛は冷め、娘ジョイからの尊敬は失っている。やりたいことはたくさんあったはずなのに、今はしがないコインランドリー経営者だ。…なぜこんなことに? するといきなりウェイモンドが別人のように豹変し、「マルチバースを崩壊の危機から救ってくれ」と言い出す。まさかまさか、これはマーベルと同等かそれ以上にスケールの大きいヒーロー映画なのか!?

ウェイモンドの意識を乗っ取ったのは別宇宙の彼で、その宇宙では「バース・ジャンプ」の技術が開発されていた。特定の、そしてとびきり恥ずかしい行動で条件を満たすとパワーが溜まり、狙った別宇宙と繋がることができるのだ! このバース・ジャンプを駆使し、エヴリンはカンフーマスターや料理人、女優、歌手など様々な可能性の自分にアクセスし、それらのスキルを“ダウンロード”して戦う。『マトリックス』で、キアヌ・リーブスが仮想世界の中で一瞬にして格闘技をマスターしていたのと同じように。エブリー(あらゆる)・エヴリンが倒さなければならないのはジョイの最悪の可能性。宇宙は泡のような構造になっていると言われるが、何もかもが嫌になったジョイは、全宇宙を泡のように消してしまおうとしていたのだ。

エヴリンを演じるのは、バレリーナの夢を諦めた経験があり、『グリーン・デスティニー』などの武侠映画でもキレキレのアクションを披露しているミシェル・ヨー。ウェイモンド役には、本作で俳優として本格的なカムバックを果たした『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』などのキー・ホイ・クァンが、悪の手先となる国税庁の役人役には『ハロウィン』シリーズのジェイミー・リー・カーティスがキャスティングされている。それだけでも中々豪華だが、万華鏡のような映像表現はそれさえ凌駕するほどのカオスな興奮を呼び起こす。マルチバースには別の人生の他、人間以外に生まれていたら…という可能性すらあるのだ。しかも、ジョイが宇宙を破滅させようと作りだしたのは、ブラックホールのような、ドーナツの穴。…いや、ベーグルの穴だ。

テニスでベーグルと言えば、相手に1ゲームも取らせない、つまり0ゲームに抑えることを指す。もちろんベーグルの形が0に似ているからだ。全てを無に帰そうとするジョイの闇に圧倒されるエヴリンは、お世辞にもマーベルヒーローのようにカッコ良いとは言えない。しかし監督のダニエルズはこれまで『スイス・アーミー・マン』でも、片割れのダニエル・シャイナートが手がけた『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』でも、「生きるのは汚くてカッコ悪い。でもそれで良いじゃないか」というメッセージを発してきた。そしてご存じ、テニスでは他にも0の呼び方がある。そう、「ラブ(love)」だ。これはフランス語で卵を意味する「ルフ(l’oeuf)」から来ているという説がある。どん底に落ちたなら、“ラブ”から始めれば良い。それがいつでも、どこにいても。

【ストーリー】
経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った”別の宇宙の夫”から、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託される。まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ!カンフーの達人の”別の宇宙のエヴリン”の力を得て、今、闘いが幕を開ける!

監督:ダニエル・クワン ダニエル・シャイナート『スイス・アーミー・マン』 
出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス
© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.  
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eeaao/ 
公式Twitter/Instagram:@eeaaojp #映画エブエブ

2023年3月3日(金)TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー

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