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『Pearl パール』好きに生きることは悪ですか。A24初のホラー3部作の肝となる、ジョーカー的女性ヴィランのオリジンストーリー!

◆今週公開の注目作

『Pearl パール』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

3部作の映画シリーズは、2作目が一番ダークになりがちだ。『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』しかり、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』しかり、『ダークナイト』しかり…。そして、A24が初めて挑戦するホラー3部作のうち『X エックス』と『MaXXXine(原題)』に挟まれたこの2作目『Pearl パール』もまた、暗く哀しい作品になっている。

本作の舞台は第一次世界大戦中、1918年のアメリカ・テキサス州だ。主人公パールは映画の中のダンサーに憧れているが、田舎の農場から出ていくことができない。全身不随の父親を世話しなければならず、母親の厳格なルールに従わなければならず、アメリカの敵国であるドイツ系の血を引いているため人目を避けなければならず、スペイン風邪のパンデミックのため人通りの多い場所にも行けないのだ(まるでコロナ禍)。結婚はしているが夫のハワードは出征し、生きているのか死んでいるのかも分からない。友だちと呼べるのは、家畜と近くの池に住むワニのセダ(実在の当時の人気女優、セダ・バラにちなむ)のみ。そんな中、スターとしてデビューするチャンスであるオーディションが開催されるが…。

本作は2作目ながら、シリーズは時系列順にはなっていない。時代設定は『Pearl』が1918年、『X』が1979年、『MaXXXine』が1980年代。この『Pearl』こそが全ての始まりだ。本作を哀しいと表現した理由はここにある。若きパールは何の希望もない田舎暮らしに絶望し夢を掴もうとしているのだが、その60年後を描いた『X』では、変わらず農場の家に住み主人公マキシーン(演じるのはパール役と一人二役を務めるミア・ゴス)を襲う醜悪な殺人老婆として登場する。パールの人生がバッドエンドになると最初から分かっているのだ。画面的には、名作ミュージカル『オズの魔法使』などで用いられたテクニカラーを思わせる鮮やかな色彩で明るくポップに見えるし、劇中にもカカシやドロシーという人物が登場するが、パールは口が裂けても「やっぱりおうちが一番!」とは言わない。

似た味わいの映画として挙げられるのは、『ジョーカー』や同作に影響を与えた『キング・オブ・コメディ』だろう。夢を持って努力しているがその才能を認めるのは自分しかいないため、理想と現実とのギャップで次第に狂っていく者たちの物語だ。特にパールの置かれた環境は『ジョーカー』と近く、一定の共感を禁じ得ない。「一度きりの人生、好きに生きなければ生きているとは言えない。しかし、母親からは欲にまみれて生きるのは邪悪と言われる。生きること(LIVE)は悪(EVIL)なのか? 私の生を奪うなら、殺してやる――」。そういったパールの心の叫びが聞こえてくるようだ。

ところで、仏教には赤い真珠(パール)の説話があるらしい。お釈迦様が弟子に簡単に悟りを開いたと勘違いされたので、血の滲むような苦労の末に赤い真珠を手にするも周りに理解されなかった漁師の話をして聞かせた、というものだ。『X』の血に濡れたパールは、あまりにインパクトがある見た目から観客の引きつった笑いを誘ったが、哀しきヴィランの人知れない苦労は涙を誘うだろう。ちなみに、パールの人生を変える映写技師を演じたデヴィッド・コレンスウェットは、ジェームズ・ガン監督の『Superman: Legacy(原題)』で新たなスーパーマンとしてデビューするのが決まっている。本作ではヴィランとヒーロー、どちらが勝利するのか? その決着にねじれた爽快さを感じたなら…、あなたの中にも“真珠”が眠っているのかもしれない。

【ストーリー】
1918年、テキサス。スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパールは、敬虔で厳しい母親と病気の父親と人里離れた農場に暮らす。若くして結婚した夫は戦争へ出征中、父親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの日々に鬱屈としながら、農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事を行うのが、パールの束の間の幸せだった。ある日、父親の薬を買いに町へ出かけ、母に内緒で映画を見たパールは、そこで映写技師に出会ったことから、いっそう外の世界への憧れが募っていく。そんな中、町で、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生農場から出られない」といさめられる。生まれてからずっと“籠の中”で育てられ、抑圧されてきたパールの狂気は暴発し、体を動かせない病気の父が見る前で、母親に火をつけるのだが……。

【キャスト】
ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ 他

【スタッフ】
監督・製作・脚本・編集:タイ・ウェスト

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