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【配信エンタ】『テンジン』山が呼んでいる。“ふたり”しか辿り着けぬ頂点へと。

この映画は、つまり―
  • ・エベレスト初登頂。「天」に挑んだ「人」の実話
  • ・歴史を動かしたよそ者コンビ
  • ・呼吸を忘れるほど美しい、意思を持つかのごとき神の山

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◆配信中の注目作

『テンジン』
配信先:AppleTV

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ひとつクイズを出そう。「なぜ山」。では、答えは? え? 問題文が不完全だから答えられない? ……これは早押しクイズにおいて頻繁に出題される問題、いわゆる「ベタ問」だ。早押しクイズでは問題文を最後まで聞いている暇はない。最初の何文字かだけを聞いて、そこから予想される文の全体像を確定させ答えるのだ。「なぜ山」の正体は、「『なぜ山に登るのか』と聞かれ、『そこに山があるから』と答えたイギリスの登山家は誰か」。答えは、約100年前に「世界一た」こと、標高8800m超を誇るエベレストの人類初登頂に挑戦したジョージ・マロリーである。彼は三度、この文字通りの世界最高峰を最初に制す栄誉に挑んだ。しかし、実際に初登頂者として残っている名前は「マロリー」ではない。もっと言うと、刻まれた名はひとつでもない。ニュージーランドの冒険家エドモンド・ヒラリーと、エベレストのガイド役であるシェルパ、テンジン・ノルゲイのふたりだ。マロリーは三度目の挑戦時、本当の初登頂を成したかどうかは誰にも知られぬまま、山に抱かれた。そして75年後に発見された。

本作『テンジン』は、1953年にエベレスト初登頂を達成したイギリス隊の実話を描いている。いや、ここからはチベット語名にならい、チョモランマ(世界の母神)と呼ぶことにしよう。当時のチョモランマ遠征は、数年後に始まる宇宙開発競争(スペース・レース)の前哨戦のように、地上で最も宇宙に近い場所で行われていた。登頂許可は年にひとつの遠征隊にしか与えられないため、イギリスは焦っていた。ヒラリーも参加した1951年の遠征で登頂を達成可能と思われるルートを見つけ出したのに、1952年にスイス隊が頂上に肉薄したからだ。そして、1954年にはフランス隊、1955年には最有力のスイス隊の遠征が決まっており、ここでチャンスをものにできなければイギリスは1956年まで待たなければならなかった。そこでイギリスは、1952年のスイス隊に同行したテンジンに声をかけたのだ。……とここまでで、引っかかった方もいただろう。初登頂したのはイギリス人ではないのかと。

シェルパとは、元々少数民族のシェルパ族を指す。しかし本作では、テンジンはシェルパ族ではないためによそ者扱いを受けている。そしてヒラリーも、「キウイ(ニュージーランド人)」としてイギリス人から少し距離を置かれている。テンジンは亡き妻に捧げるため、幼い頃から魅入られていたチョモランマの登頂を目指すが、ウィレム・デフォー演じる軍人上がりの隊長ジョン・ハントは身内贔屓で、テンジンらシェルパを自分たち“登山家”より下の存在として見ている節がある。登頂という栄光の椅子に座れるのは隊の中でただふたりだけ。テンジンとヒラリーは、よそ者同士組むことで肉体と偏見という人類の限界へ挑むのだ。しかし、順調に歩を進める彼らのもとに、スイス隊を阻んだ神の息吹、モンスーンが近づいていた……。

ヒラリー役のトム・ヒドルストンと二人三脚で山頂を目指すテンジン役には、チベット系中国人俳優でどことなく山田孝之を思わせるゲンデン・プンツォクが起用されており、ハリウッドスターに囲まれながらも素朴かつ大人物であるテンジンを気持ちよく演じている。監督は、様々な名峰に挑む冒険者たちを撮ったドキュメンタリー『クレイジー・フォー・マウンテン』のジェニファー・ピーダムで、雪が舞い上がり白いオーラに包まれたチョモランマの恐ろしくも荘厳な姿を美しく描き出している。山頂付近の酸素がほとんどない“デスゾーン”の暴風の轟音は、天に近付こうとする不届きな人間への怒号なのか、それとも人間の飽くなき向上心への祝福なのか。吹雪がかき消そうとしても、決して消えない足跡が本作には刻まれている。山が呼んでいる? 忘れるなかれ、山彦とは己の声なのだ。

【ストーリー】
驚異の実話に基づく物語。強い決意を抱いた男が、エベレスト山頂に人類で初めて到達するという夢を実現するため、命懸けの挑戦に乗り出し、不可能と思われる困難に立ち向かっていく。

【キャスト】
ゲンデン・プンツォク、トム・ヒドルストン、ウィレム・デフォー、カトリーナ・バルフ、ジョニー・フリン 他

【スタッフ】
監督:ジェニファー・ピーダム

 

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