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『ドリーム・シナリオ』全世界が、THIS MAN(この男)に“夢中”。

この映画は、つまり―
  • ニコラス・ケイジが皆の夢に登場!?
  • 段階をすっ飛ばして承認欲求が満たされてしまうと……
  • 「毒にも薬にもならない」方がマシか、「毒にも薬にもなる」方がマシか

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◆配信中の注目作

『ドリーム・シナリオ』

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

インターネットやSNSの発達に伴って、人類は従来の三大欲求に次いである欲求を特に重要視するようになってきていると思う。承認欲求だ。心理学者マズローの欲求段階説によれば、三大欲求が含まれる第1段階「生理的欲求」、安心して生活を送りたいと望む第2段階「安全欲求」、集団に属して愛されたいと望む第3段階「社会的欲求」の次の第4段階が「承認欲求」だが、第3段階をクリアしないでも簡単に承認欲求を得られる世の中になってしまったのではないか。誰からも好かれていなくても注目は浴びられるという状態だ。本来、ここまでの欲求が満たされると、第5段階の自分を理想の姿に近づけたいと望む「自己実現の欲求」が生まれると言われているが、SNSで悪行を見せびらかすいわゆるバカッター(“バカックス”にアップデートするべきか?)をしている人は永遠に「承認欲求」段階に留まり続けているように見える。

まあ、人によっては夢を叶えやすい時代になったのは確かだろう。本作『ドリーム・シナリオ』の主人公ポール・マシューズも、そうして夢を叶えたうちのひとりだ。特に目立った業績もなく、「今はまだ本気を出していないだけ」イズムで根拠のない自信だけがある中年男性だが、本人が知らないところで有名になり始める。ある日突然、都市伝説「THIS MAN」のように世界中の人の夢にポールが現れ始めたのだ。夢を見ている人はその中でピンチに陥るが、ポールはそれを見ているだけで何もしない(夢の中でさえも!)。この無害なオモシロ現象は世界を夢中にさせ、ポール自身も調子に乗り始めるが、いつしか夢の中のポールは夢を見ている人に危害を加え始める。そうして現実の有名無実のポールは、まさに無実のままに全世界のヘイトを一身に負う存在になってしまったのだ! 「アンチが多くても目立つなら構わない」というバカッター精神でも備えていれば良かったのだろうが……、良くないか。

まず、劇中の世界と我々の世界は似ているようでいて、悲しいほど大きな乖離がある。我々は、ポール役がニコラス・ケイジであると知っている。ケイジは、このバースで実現しなかったとは言え、別バースではスーパーマンを演じていたのだ。それに、常識的に考えて夢の中でケイジに殺してもらえるなどこれ以上ない幸運なことだろう! ケイジは、このバースでかつて『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞に輝いたのに……、いや、しかしその後はエキセントリック演技のB級映画俳優のレッテルを貼られてしまったのだった(『ウィッカーマン』でハチに襲われながら「ハチが! 目にハチがぁ!」と渾身の演技をかましたケイジ自身が悪い可能性は十五分にある)。そう考えると、ケイジとポールは割と似ているのかもしれない。

スーパーマンでなくバットマンの方になるが、本作は驚くほど『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』に似ている。本人を差し置いて名声(フェーム)だけが一人歩き(ウォーク)し、勝手に好かれて勝手に嫌われるのだ。例え、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに名が刻まれた人物であっても。当初のポールと、ジュリアンヌ・ニコルソン演じる妻ジャネットの夫婦関係は本当に素敵だ。欲求段階説の第3段階のお手本にも思える。しかし、第4段階に固執しすぎると第3段階どころかその前の段階すら危うくなると本作は警告している。『フォリ・ア・ドゥ』よろしく、これもまた哀しき(ケイジファンならはらわたが煮えくり返る)コメディだったが……やはりケイジとポールには違いがあるのだろう。ポールはケイジと違い「何もしていない」のだから。

監督のクリストファー・ボルグリは前作『シック・オブ・マイセルフ』で、自らの寿命を縮めてでも目立とうとする承認欲求をこじらせすぎた人間の末路を描いていた。“ドリーム・シナリオ(夢の筋書き)”通りに有名になるのは嬉しいことかもしれないが、辿ってきたはずの詳しい道筋について説明できるだろうか? 『インセプション』の中で、「どうやってここに来たか」が分からない場合は夢の中にいるのだと説明される。もしかしたら、夢を叶えた気になっていても、冷静に考えてなぜ今この状況になっているのかが分からない“霧中”にあるのなら、それは現実ではないのかも……? 本作で後味悪さを感じた方は、来週公開される『シンパシー・フォー・ザ・デビル』でお口直しだ。笑顔でケイジに脅されよう。

【ストーリー】
ごく普通の暮らしをしている大学教授のポール・マシューズ。ある日、何百万という人々の夢の中に一斉にポールが現れ、一躍有名人に。人々にもてはやされ、メディアの注目を集め、夢だった本の出版まで持ちかけられ、ポールは天にも昇る気持ちだった。しかし、そんな夢のような日々は突然終わりを告げる。夢の中のポールが様々な悪事を働くようになり、現実世界で大炎上。その人気は一転、ポールは一気に嫌われ者になり、悪夢のような日常が始まる。何もしていないのに人気絶頂を迎え、何もしていないのに大炎上したポールの運命は――!?

【キャスト】
ニコラス・ケイジ、ジュリアンヌ・ニコルソン、リリー・バード、ジェシカ・クレメント、マイケル・セラ

【スタッフ】
監督・脚本:クリストファー・ボルグリ

 

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