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『ほの蒼き瞳』作家エドガー・アラン・ポーの“あったかもしれない”オリジンストーリー。そして、「誰がやった?」で二度楽しめるゴシック・ミステリー。

この映画は、つまり―
  • 江戸川乱歩というペンネームの元ネタ、推理小説家エドガー・アラン・ポーの若かりし頃を描くフィクション
  • 作品の印象を180度変えてしまう、衝撃の終盤30分
  • ポーを演じたハリー・メリングとは誰?

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◆配信中の注目作

『ほの蒼き瞳』(2022)

Netflixで視聴するこちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

世界一有名な名探偵と言えば、シャーロック・ホームズ…だろうか。ホームズのおかげで、探偵には捜査を手伝う相棒がつきもの、というイメージがある。アーサー・コナン・ドイルがホームズと相棒ジョン・ワトソンを初登場させた『緋色の研究』は、今から1世紀以上も前の1887年に発表された。しかし、それが世界最初の推理小説ではない。一説には、最初はエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』と言われている。発表年は、『緋色の研究』からさらに40年以上さかのぼった1841年だ。

本作『ほの蒼き瞳』は1830年を舞台にしている。当時のポーは、今でも残っているニューヨークのウェストポイント陸軍士官学校に通っており、すでに詩人としても活動していた。ただし、本作の主人公は元刑事のオーガスタス・ランドーであり、彼が陸軍士官学校で起きた士官候補生の首吊り死体から心臓が抜き取られるという猟奇事件を捜査する物語になっている。ポーは探偵役でなくランドーの相棒になるという点が興味深く、変人ながら持ち前の推理力を活かしランドーを助けていく。被害者が握りしめながら死んでいた手紙のわずかな切れ端から本来の内容を解読していくシーンは、陰鬱とした本作の中でも純粋にエンタメとして面白い場面のひとつだ。しかし、2人の奮闘も虚しく、さらなる犠牲者が出てしまう…。

さて、ここまで話した中には大きな嘘が含まれている。何と、ポーが1830年に陸軍士官学校に通い、詩を嗜んでいたこと以外は史実ではないのだ。つまり、ランドーは原作者のルイス・ベイヤードが作り出した架空の人物で、この事件もベイヤードの創作に過ぎない。しかし、死体安置所(モルグ)の心臓のない死体に始まり、この心臓こそが物語の重要なキーとなり(『告げ口心臓』)、文字通りの意味で『早すぎる埋葬』の話だったのかと、ポーの後の作品のエッセンスを散りばめたような内容になっているのだ(本作のタイトルは『告げ口心臓』、冒頭の文章は『早すぎる埋葬』からの引用)。ランドーの名はオーガスタス(Augustus)で、ポーが『モルグ街の殺人』で登場させたホームズの大先輩はオーギュスト(Auguste)・デュパン。このような出来事がポーの作家人生に影響を与えたのかもしれない…と自由に想像を膨らませたフィクションなのだ。

ポーの作家性でもある怪奇的な方向に向けて物語は進行し、犯人らしき人物が浮かび上がり事件が解決したように見えても、油断してはいけない。まだそこから映画は30分ほど残っているのだ。その後の展開は、事件の印象を一変させてしまうだろう。本作には蒼き瞳を持つ人物が複数登場するが、そこではたと気づくのだ。誰より暗く蒼い目を持ち、ハートを抜き取られてしまった人物の正体に。

…そして、観客だけにはもうひとつのサプライズが。犯人は誰かというフーダニット(Whodunit、「誰がやった?」)のミステリーである本作には、『ハリー・ポッター』シリーズの俳優が多く出演している。ティモシー・スポール(ピーター・ペティグリュー役)、トビー・ジョーンズ(ドビー役)、サイモン・マクバーニー(クリーチャー役)…そしてもうひとり、繊細なポーを演じたハリー・メリングが。主役のクリスチャン・ベールに目が行きがちで、多くの人にはメリングが誰だか検討もつかないだろうが、経歴を調べていただければ「『ハリー・ポッター』シリーズのあの人物がこの役をやっていたのか!」と驚くこと請け合いだ。

【ストーリー】
死んだ士官候補生、持ち去られた心臓、そしてオカルトとのつながり。捜査を依頼された元刑事は、聡明なエドガー・アラン・ポーの協力を得て奇怪な殺人事件の謎解きに挑む。

【キャスト】
クリスチャン・ベール、ハリー・メリング、ジリアン・アンダーソン、ルーシー・ボイントン、シャルロット・ゲンズブール、トビー・ジョーンズ、サイモン・マクバーニー、ティモシー・スポール、ロバート・デュヴァル 他

【スタッフ】
監督・脚本:スコット・クーパー
原作:ルイス・ベイヤード『陸軍士官学校の死』

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