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『デュアル』自分の最大の敵は、ちょっとだけ優れた自分自身。カレン・ギランが上位互換の自分と“自悶自闘”するクローン系SF…!?

この映画は、つまり―
  • やさぐれたオリジナル・カレン・ギランVS服のセンスが良いクローン・カレン・ギラン
  • クローンというよりドッペルゲンガー？
  • 所謂、“想像してたのと違う”系の作品

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◆配信中の注目作

『デュアル』（2023）

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文：屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

世間は、「自分自身を好きになれ」とよく言う。まあ、自分を嫌いでいるよりは好きでいる方が精神衛生的に好ましいのは間違いないだろう。しかし、人間というのは理想ばかり高いものだ。自分より幸せそうだったり、より美味しそうな料理を食べていたり、より良い車に乗っていたり、よりテストの点数が高かったり、よりコミュニケーションが上手かったり…、そんな他人のことを好きになれるほど、誰もがお人好しじゃない。「自分にするように隣人を愛せ」？　あの羨ましい他人よりも劣った自分なんて、好きになれるわけがない！　ましてや、その“他人”が自分自身だったとしたら…？

SFである本作『デュアル』の世界では、誰ひとりとして“かけがえのない人間”ではない。1時間でポンと作れるほど、クローン技術が発達しているためだ。恐ろしい社会だと思ったら、クローンである「ダブル」はあくまでオリジナルの人間が死に瀕した時にだけ作られ、残された家族などが悲しまないようにしてくれるらしい。何て素晴らしいんだ！　クローンは作られた時点で本人とそっくりの見た目をしており、オリジナルの年齢と同じ時間をかけて育てる必要もない。ただし、細かい癖や好みなどはオリジナルとは違う場合があるので、オリジナルは自分が死ぬ前にダブルに“自分らしさ”を継承するのだ。ちなみに、ダブルの製作費を払いきれなくても、自分の死後にダブルが代わりに払ってくれる。だってどっちも自分だし。何て素晴らしいんだ！

カレン・ギラン演じる主人公のサラは、恋人のピーターとはなかなか会えず、連絡してくるのは過干渉な母親だけ。何事もなく、というか楽しい出来事すら何もない孤独な日常を過ごしていると、いきなり不治の病と宣告される。イマイチ現実感もない中、一応母親たちのためにとダブルを作り、ダブルがきちんとサラとして生きていけるよう引き継ぎをする…が、超ミラクルが起きサラの“不治の病”とやらが完治してしまう。継承の期間以外でオリジナルとダブルの2人(デュアル)が同時に存在することは法的に許されないので、こういう場合は生き残る方を決めるため正々堂々と勝負しなければならないのだーー決闘(デュエル)で。そうそう、母親たちはダブルが勝つのを望んでいる。…あれ、本当に素晴らしい世界なのか…？

何となく察されたかと思うが、本作はハードなSFではない。筆者はSFには大きく2つのパターンがあると考えている。ひとつは未来世界や技術の映像を全面に押し出したもので、もうひとつはある寓話を語るためにSF的な設定を用いているものだ。後者に関して、筆者は勝手に「静かなSF」と呼んでいる。『デュアル』は一応SFに見えるが、やっていることはドッペルゲンガーものであると言えるだろう。その類の作品でよく描かれるのは、見た目は全く同じなのに何かしらの部分が自分より長けている分身が自分の居場所を奪っていく、という恐怖だ。ダブルはサラのようにやさぐれていないし、服のセンスも良い。あとセルライトもない。自分でありながら、少しだけより理想に近い自分。そんな完全上位互換なダブルには、魅力ではオリジナルは絶対に敵わない。“魅”がなければ“力”で勝つしかないのだ！

見ていると気づくだろうが、仏頂面のカレン・ギランが2人いること以上に、本作にはどことなくマヌケなシーンが多い。そう、本作は真顔でジョークを連発するようなブラックコメディでもある。テイストはヨルゴス・ランティモスの『ロブスター』などにも似ている。監督のライリー・ステアンズが本作の前に撮った『恐怖のセンセイ』は、ひ弱なジェシー・アイゼンバーグが高圧的な男たちに立ち向かうため道場のセンセイから空手を習った結果、自分もまた同じような男になっていく、『ファイト・クラブ』を意識したようなブラックコメディだった(ちなみにアイゼンバーグもまた過去に、ドストエフスキーの『二重人格』を原作としたドッペルゲンガーもの『嗤う分身』に出演)。『デュアル』にもセンセイ的なキャラクターが登場し、オリジナルのサラに決闘の特訓をしてくれる。

ステアンズの持ち味は意地悪な作風だ。ドッペルゲンガーとは「ダブルウォーカー」、「二重の歩く者」という意味だが、決闘制度のあるこの狂った世界では自分2人で仲良く歩んでいくことは社会的に許されない…。「自分など好きになれない」という話ながら、カレン・ギランの好演によって良い人とは言い切れないサラがたまらなく愛おしくなってくるのが救いだが、ほとんどの方が本作を見て『思ったのと違う』と感じるだろう。その時は、本作のタイトルをもう一度見返してほしい。ああ、ステアンズは何て意地悪なんだ。

【ストーリー】
同棲中の恋人ピーターとはマンネリ気味。父は亡くなり、過保護な母は毎日連絡をして来る。そんな平凡な毎日を過ごすサラだったが、ある日突然悲劇が訪れる。密かに体を蝕んでいた病魔により、余命が残り僅かだというのだ。茫然自失となるサラに、医師から「リプレイスメント（継承者）」のカタログが手渡される。それは、間もなく死を迎える者が、遺族を癒すために自らのクローンを作り出すというプログラム。サラは「リプレイスメント」を決断し、残された時間をクローンとの引継ぎに充てる。目の前でピーターや母と親しくなっていくクローンの姿に寂しさを覚える中、サラの病が奇跡的に完治したという報せが入る―。

【キャスト】
カレン・ギラン、アーロン・ポール、ビューラ・コアレ、テオ・ジェームズ　他

【スタッフ】
監督・脚本：ライリー・ステアンズ

 

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屋我 平一朗

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