MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

『TAR/ター』彼女が奏でるのはシンフォニーかカコフォニーか。生ける伝説リディア・ターの総てがここにある。

この映画は、つまり―
  • 人間を超越した存在、ケイト・ブランシェット
  • キャラクターの複雑さが生む圧倒的なリアリティ
  • 「芸術」と「芸術家」のあいだ

記事を見る

◆配信中の注目作

『TAR/ター』

U-NEXTで視聴するこちら
Amazonプライムで視聴するこちら
Apple TVで視聴するこちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

映画を多く見ていると時々、人間を超越しているように見える存在に出会う。神や妖精、魔法や超能力が使えるキャラクターなどを指して言っているのではない。むしろ、それらを演じている俳優のことだ。彼女ら…、そう、個人的には、本当に人間以上の存在に見える俳優として思い当たるのは女性しかいない。例えば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズで全身黄金色をした異星の女王アイーシャを演じた身長191cmのエリザベス・デビッキ。例えば、『コンスタンティン』でハーフ・ブリード(半分天使)のガブリエルを演じた中性的な容姿のティルダ・スウィントン。そして…『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでエルフの女王ガラドリエルを演じたカリスマ俳優ケイト・ブランシェットだ(ちなみに、何の偶然か全員マーベル映画で常人ならざるものを演じている)。

本作でブランシェットは生ける伝説であり、現代音楽界で最高の才能を持つ女性マエストロのリディア・ターに扮している。「音楽界」という言葉さえ、彼女の活躍の場を過小評価しているように響くほど、唯一無二の偉大な人物だ。ターはアメリカのEGOT(イーゴット)、すなわち、最高のテレビ番組に贈られるエミー賞、最高の音楽に贈られるグラミー賞、最高の映画に贈られるオスカー(アカデミー賞)、最高の演劇に贈られるトニー賞を全て受賞したという設定になっている。グランドスラムと表現すると分かりやすいだろう。音楽の神なのだ。

もちろん、ベルリン・フィルを率いているこのリディア・ターという指揮者は実在しない。なのに、リディア・ターは実際にそこにいる。ブランシェット自身が行っている指揮、英語に混じって流暢に話されるドイツ語、次々に飛び出すクラシック音楽・音楽家たちに関するエピソードと皮肉交じりのジョーク…。ターは女性ながら男性を凌駕し、さらにレズビアンでもあって女性と結婚し、娘にはパパと呼ばせている。だからと言って他のLGBTと連帯するわけではないし、ハラスメントは日常茶飯事。一言では言い表せない多層的で複雑なキャラクターだ。本作のストーリーは淡々と進み、行き先が読みづらく、さらにジャンル分類もしづらい。前半は、いもしないはずのターについてのドキュメンタリーにすら見えるほどだ。しかし時折、意味の分からないシーンが出てきて観客を混乱させる。

ターは超人的な聴力を持っている。さすがに、文字通りの超人であるスーパーマンやウルトラマンのように数キロ先の針が落ちる音まで聞こえないまでも、微かな音が聞こえてしまう。ターは、気に入らない者の発言は雑音として切り捨てながらも、だんだんと無視できない音に悩まされていく。かつてターと関わりのあった女性指揮者が亡くなったと知ってから。気配とは、些細な音の違和感から察せられるものだ。気づけば、いつの間にか観客もターとともに何者かの気配を感じている。カメラは時に何もいない空間を撮り続け、またある時は暗闇に不気味な人影を捉える。やがて、時間の芸術である音楽を操るターの心は乱れ、次第にコントロールが効かなくなっていく…。

なるほど、本作は心理的なホラー・スリラーだったのだ!劇中で聞こえてくる叫び声は、あの有名なホラー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の音声らしい。しかしそんなホラー的側面すら、本作の一部分に過ぎない。ターがその身をもって示すのは、権力が人にもたらす影響だ。権力を振りかざすのは男性という典型的なイメージがあるが、本作ではジェンダーによらず権力を持つ側が持たざる側を蹂躙すると描かれている。過去または現在の音楽界、映画界、または我々の身の回りに向けた真実の告発だ。それでもTARは芸術(ART)か? それとも蔑まれるべき人物(RAT)か? そして観客をキョトンとさせるラストシーンの意味は? 今言えるのはこれだけだ。普通に映画を見るように、画面を明るくして音量を上げて臨んでほしい。…さあ、じきに幕開けだ――。

【ストーリー】
世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。彼女は天才的な能力とそれを上回る努力、類稀なるプロデュース力で、自身を輝けるブランドとして作り上げることに成功。現代音楽界を牽引する圧倒的カリスマとして君臨するが、マーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんな時、かつてターが指導した若手指揮者の死をきっかけに、彼女の完璧な世界は少しずつ崩れ始める―。

【キャスト】
ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス、ソフィー・カウアー、マーク・ストロング 他

【スタッフ】
監督・脚本:トッド・フィールド

 

★配信エンタの過去記事はこちら

『シークレット・インベージョン』/敵は誰で味方は誰か…そしてあいつの顔をしたお前は誰だ?誰も信じてはいけない、スーパーヒーローなしのマーベルドラマ!
『タイラー・レイク -命の奪還-2』/ストーリーよりアクション重視ならこれしかない!クリス・ヘムズワースが配信アクションの限界を再びブッ壊す!

『ディヴォーション:マイ・ベスト・ウィングマン』/去年が『トップガン』なら今年はコレか!?フィクションが超えられない高みを目指して飛んで行け!
『別れる決心』/ロマンスはミステリー。パク・チャヌク監督が仕掛けたこの謎は、絶対に解いてはいけない。
『FUBAR/フーバー』/敵を欺くにはまず家族から。娘にタジタジのシュワちゃんが奮闘するアクションコメディ・ドラマシリーズ!
『AIR/エア』世界一有名なバスケシューズはこうやって生まれた!?弱小「ナイキ」が強豪ライバル会社に立ち向かう!

バックナンバー