MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

『みなに幸あれ』幸せのしわ寄せ。他人の不幸は蜜(ネクター)の味。

この映画は、つまり―
  • 第1回「日本ホラー映画大賞」、大賞受賞作の長編化
  • こんなの見たことない、けれど“知っている”話
  • Jホラーの未来は明るい?

記事を見る

◆配信中の注目作

『みなに幸あれ』

Amazonプライムで視聴する⇒こちら

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ホラー映画において、最も怖いシーンとは何だろうか? 包丁を持った殺人鬼との追いかけっこや、得体の知れない何者かと目が合ったり、マトモだと思っていた相手の狂気が発覚したり……。ゾッとする場面など数え切れないほどあるが、筆者は決定的なことが起きるシーンよりもその手前の方が怖いと思っている。例えるなら、銃で撃ち殺される瞬間より、銃を持った相手にずっと隣に立たれ、いつ撃たれるかと戦々恐々としている時間の方が怖いのだ。主人公の命が脅かされる展開にならなくとも、不気味で不穏な雰囲気が映画全編を支配していればそれは十分に恐ろしいホラーと言って良いのではないか。

そんな本作『みなに幸あれ』は、一言で言えば「田舎ホラー」だ。主人公である“孫”(名は明かされない)が久々に都会から帰省し訪れた祖父母の家でナニカを見てから、今まで認識していた世界の形が根底から崩れ始める……というのがあらすじだ。猟奇的な村人に追いかけ回されるようなテンションの高いタイプではない。静かながらシュールな笑いと例えようのない気持ち悪さに満ちた作品だ。序盤はM・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』に少し似ているが、主人公の抽象的な役名からも分かるように、本作は寓話になっている。

公式で言われているので言ってしまおう。テーマは、誰かの幸せと背中合わせの誰かの不幸についてだ。幸福に関するトロッコ問題と言い換えても良いだろう。即ち、「1人を不幸にして5人を幸せにしても良いか?」というような問いだ。誰もが何となく感じている、この世の理。1人の生贄で複数名は救えないとした方がホラーとしてより絶望的な設定だったろうが、しかし「他人の不幸は蜜の味」なんて生易しい話でないのも確かである。なぜなら、この蜜は嗜好品ではない。この蜜を舐めなければ人間は幸せに生きていけないのだから。そして訪れる、絵に描いたような“ハッピーエンド”。タイトルにある「みな」とは、果たして誰を指すのだろう? あなたは今後、幸せを感じることはできるのだろうか?

ある種の“常識”をショッキングなビジュアルで描いた本作は、元々は第1回「日本ホラー映画大賞」のために制作された11分の同題短編映画だった(最も印象的な祖母役の犬山良子のみ続投)。大賞受賞者には短編の長編リメイクか別のオリジナル長編を撮るチャンスが与えられるという新たな才能発掘の場であり、現在劇場では第2回「日本ホラー映画大賞」受賞作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』が公開されている。Amazon Prime Videoで第1回と第2回の受賞作品が短編集として見られるようになっているので、短編の『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』を鑑賞して劇場へ急ぐも良し、他の作品をチェックして今後どのような長編デビュー作が出てくるのか期待に胸を膨らますのも良しだ。Jホラー界の未来は明るい! ……と言うとホラーに対して侮辱になるだろうか? ――Jホラーの未来は暗い。どんな闇より深くて暗い。良い意味で。

【ストーリー】
看護学生の“孫”は、ひょんなことから田舎に住む祖父母に会いに行く。久しぶりの再会、家族水入らずで幸せな時間を過ごす。しかし、どこか違和感を覚える孫。祖父母の家には「何か」がいる。そしてある時から、人間の存在自体を揺るがすような根源的な恐怖が迫って来る…。

【キャスト】
古川琴音、松大航也、犬山良子、西田優史、吉村志保、橋本和雄、野瀬恵子、有福正志 他

【スタッフ】
監督・原案:下津優太

 

★配信エンタの過去記事はこちら

『終わらない週末』神が世界を創造し終えた週末から世界が終わっていく。世にも静かで美しいアポカリプティック・スリラー。

『PIGGY ピギー』彼は悪魔の殺人犯、それとも白馬の王子様?これはホラーかラブストーリーか。

『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』地の果てでひとつ、またひとつと個々の世界が終わっていく。Z世代の探偵は世界の崩壊を止められるか?

『レンフィールド』”虫食い下僕”ニコラス・ホルトVS”パワハラドラキュラ”ニコラス・ケイジ!ニコラス対決を制するのは誰だ!

『ザ・キラー』“完璧”は時に人を退屈させる。しかし“完璧”に生きられる人間などいない。

バックナンバー