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『ボディビルダー』筋肉だけが裏切らない。筋肉だけが全てを解決する。

この映画は、つまり―
  • もしも、ジョーカーがマッチョだったなら
  • 健全な精神は健全な肉体に宿る?
  • ジョナサン・メジャースの笑えない怪演

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◆配信中の注目作

『ボディビルダー』
配信先:U-NEXT

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

役作りと聞いて、まずどの部分の変容を想像するだろう。キャラクターの心情や過去を落とし込むことで、全く別人のようになる内面か。それとも、そこから醸し出される雰囲気か。演技という意味では当然、それらの占める割合は大きい。しかし、全てではない。セリフを喋り始める前、役者と我々観客の視線が交差する前に、役はその存在を声高に主張する。どの部分で? もちろん、肉体だ。肉体改造自体が俳優の“十八番”となっている場合もある。『マシニスト』で骨と皮だけになったり、『バイス』で実際のチェイニー元米副大統領に似せるためにでっぷり太ったりと、極端に体型を変えるクリスチャン・ベールが特に有名だろう。

本作『ボディビルダー』は邦題の通り、そして原題『マガジン・ドリームス』の通り、世界的なボディビルダーとなり雑誌の表紙を飾るのを夢見る主人公キリアン・マドックスの姿を残酷に映し出している。主演のジョナサン・メジャースは、『クリード 過去の逆襲』でもバキバキに仕上がった身体を披露していたが、本作でのそれはもはや狂気の結晶と呼ぶ他ない。数か月間、毎日大量のカロリーを摂取して血の滲むような、いや血を吐くようなハード過ぎるトレーニングを続けた結果、彼の筋肉は今にも破裂してしまいそうなほどに膨れ上がった。ところが、本作において本当に破裂しそうなのはキリアンの心の方だ。

ボディビルダー版『ジョーカー』などとも評されているが、それは非常に的を射ている。キリアンが精神的に問題を抱えながら残った最後の家族である祖父を介護していたり、友人も恋人もいない孤独な人間であったりと共通点が多いし、引いては『ジョーカー』に影響を与えている『タクシードライバー』にも近い部分がある(同作の主人公トラヴィスとキリアンの祖父は両方ベトナム帰還兵)。キリアンはボディビルで世界中の視線を奪おうと、半ば非現実的な目標を掲げている。しかし、それをいわゆるただの“承認欲求”と切り捨てるにはあまりにも無慈悲だ。そう思ってしまうほど、現実の彼を見てくれる人はほぼいない。誰もが視線を集められるようになっ(てしまっ)た現代において、視線を注がれないものは存在していないも同じ。光を発さず、光を反射しないものは他人の目には映らない。

ところが、キリアン自身も他人が近寄りがたい性格をしているのが悲劇だ。『ジョーカー』のアーサー・フレックと同じく面白いことが言えず、いやそれ以上に不運なことに、キリアンは冗談すら言えない。向けられる笑顔は、鏡の中の痛々しいものだけ。彼の側にいてくれるのは自分の筋肉だけ。どんどん黒光りしていく肉体はそれでも他人の目には映らず、脂肪を失っていく肉体は孤独と寒さに震え続ける。震えの原因が怒りに変わる時、キリアンもまたアーサー、トラヴィスと同じ末路を辿るのかと予感させる。「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」とは古代ローマから現代まで残っている格言だが、本来は「健全なる肉体に健全なる精神が与えられるよう、神に祈るべきだ」という意味であるらしい。では、ステロイドをたっぷり打っているキリアンの肉体の場合は?

メジャース自身が演技の道に入るきっかけが、『ダークナイト』でジョーカー役のヒース・レジャーの怪演だったというのが何とも運命的だ。そして奇しくも、メジャース自身が攻撃性をコントロールできず、元交際相手に対する暴行でマーベルから追放された。しかし、本作には『ジョーカー』とも『タクシードライバー』とも明確に違う部分がある。本作がメジャースのキャリアを再び照らす作品になることを、神に祈っておこう。

【ストーリー】
アメリカの片田舎で病気の祖父を介護しながら暮らす青年キリアン・マドックス。低収入で友人も恋人もおらず孤独な毎日を送っているが、彼には揺るぎない<夢>があった。一流ボディビルダーになり、その鍛え上げた肉体で雑誌の表紙を飾ることだ。すべてを捧げ過酷なトレーニングと食事制限に打ち込むが、身体は悲鳴をあげ、社会の不条理と孤立が彼の精神を蝕んでいく。そしてある事件を機に、純粋な夢は狂気へと変貌する……。

【キャスト】
ジョナサン・メジャース、ヘイリー・ベネット、テイラー・ペイジ、マイク・オハーン 他

【スタッフ】
監督・脚本:イライジャ・バイナム

 

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