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『スパイダーヘッド』高揚した心を超高度から地面に叩きつけるスリラー。『トップガン マーヴェリック』の見方を変えてしまう一作。

この映画は、つまり―
  • 監督はまさかの『トップガン マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキー…だけど…?
  • キャスト・脚本もあのスーパーヒーロー作品関係者ばかり…だけど…?
  • 映画の力は恐ろしい

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◆配信中の注目作

『スパイダーヘッド』

Netflixで視聴するこちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

突然の質問で申し訳ないのだが、読者の皆さんはお酒をよく飲むだろうか? 筆者に関して言えば、否だ。しかし、映画はよく観る。「何の関係があるのか」? 質問の意図を明かすのは後にしよう。…さて、現在劇場では大傑作『トップガン マーヴェリック』が文字通り絶賛公開中であるのだが、長い延期を経ての封切りと同じタイミングで、監督のジョセフ・コシンスキーの最新作がNetflixで配信されているという面白い現象に我々は立ち会っている。しかも、2作は全くコインの裏表のような存在なのだ。

本作は、非常に珍しい“治験スリラー”であると言える。重罪人が集められたスパイダーヘッド刑務所では、囚人を対象にした様々な薬品の効果を測定するための実験が行われている。責任者のアブネスティは、囚人と距離の近い関係を築きながら、次々に薬を投与していく。…しかし、その薬は被験者の感情をコントロールできる危険なものだ。その都度きちんと彼らの承認を得ているとは言え、その所業は名前が近い、国際組織アムネスティが行っている人権擁護とは似ても似つかない人権侵害以外の何物でもない(確かに劇中の被験者たちは、アムネスティが扱うような非暴力的ながら不当に逮捕された「良心の囚人」などではないのだが)。

アブネスティの肩を持つわけではないが、登場する薬品は不安や恐怖心を増大させる恐ろしい一面だけでなく、正直に言って、実に魅力的にも描かれている。何せ、“バカにつける薬”が存在するのだ。これは言語中枢に働きかけ、一時的にではあるが表現力を飛躍的に高めてくれる。今すぐ1本欲しい。さらに、即座に相手への愛情を芽生えさせる薬も。これがあれば、愛されない者など世界からいなくなり、争いは消えるだろう! 囚人の苦しみは、大きな目的に比べれば些細なものだ。我々だって、医学の進歩のために動物実験を許容しているではないか! 治験への参加によって囚人の刑期の短縮になるのだし、誰も損はしていないはずだ!

…失礼、少々取り乱したようだ。本作を見れば明らかなように、人間の感情とは実にいい加減なものだ。正しく発生しているとは限らない。吊り橋の高さが原因の動悸を、相手の魅力に対するドキドキと勘違いすることもある。出演は『アベンジャーズ』のクリス・ヘムズワース、『ファンタスティック・フォー』のマイルズ・テラー、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』のジャーニー・スモレットで、脚本はマーベルの『デッドプール』の脚本も手掛けたレット・リース&ポール・ワーニックと、なぜかスーパーヒーローに関わりのあるメンツばかりが集まっているが、それが対照的に人間の不安定さを炙り出している。

最初にしたお酒と映画の話を覚えているだろうか? あなたがお酒を飲むのは、良い気分になるためではないか? 「酒は百薬の長」と言う。本作に登場する薬品とどう違うのだろう? また、映画も監督の意図通りに、観客の感情を巧みにコントロールする力を持っている。『トップガン マーヴェリック』を撮ったコシンスキー監督が、そこに自覚的でないはずがない。劇中で流れる曲は脳天気なものばかりだが、『デッドプール』のような爽快なブラックコメディにはなっていない。逆に居心地の悪さすら感じるのは、モルモットのような様の囚人たちに自らを投影してしまうためだろうか?

我々は、彼らのように閉じ込められてはいない。蜘蛛の子を散らすように逃げる必要はない。いや、できないのだ。我々は自分の意志でお酒やチケットを買い、望んでコントロールされている。手錠で繋がれてなどいなくとも、誰しも囚人に違いない。よく言うだろう、「人間は自由の刑に処されている」のだから。

【ストーリー】
近未来、囚人たちは刑期を短くするために医学実験の被験者となることを志願するチャンスを与えられる。愛情すら喚起させられる新薬の実験に、ある囚人は自分の感情のリアリティを疑い始める。

【キャスト】
クリス・ヘムズワース、マイルズ・テラー、ジャーニー・スモレット

【スタッフ】
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本:レット・リース&ポール・ワーニック

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