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『アメリカン・フィクション』フィクションは現実を映すもの。だが我々の丸い目には、世界は丸くしか映らない。

この映画は、つまり―
  • 今年度のアカデミー賞に5部門ノミネート、脚色賞を受賞した“ブラック”コメディ!
  • 一見素晴らしい現在のポリコレの穴を突く!
  • 偏見は人種問題に留まらない?

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◆配信中の注目作

『アメリカン・フィクション』

Prime Videoで視聴する⇒こちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「事実は小説よりも奇なり」とはよく言うが、近頃ではこれまでフィクションの世界でしかありえなかったことが実現してきているのではないだろうか。黒人や性的マイノリティなど、弱者とされている者・少数派の意見によって多数派を動かせる場合があるからだ。全てのケースで上手くいっているとはまだ言えないものの、少数派の意見も可能な限り尊重してこその多数決であるため、世界は少しずつ良い方へ向かっている…と思いたい。しかし実際、思慮深いように見えたその態度こそが、不快な結果を生んでいる可能性はないか?

本作『アメリカン・フィクション』は、今年度のアカデミー賞で脚色賞に輝いたブラック(黒人)コメディだ。“黒人らしく”ない高尚な小説ばかり書いているセロニアス・エリソン(黒人のジャズピアニスト、セロニアス・モンクと同じ名前なのでモンクと呼ばれている)は、全く売れていない作家で大学教授。授業の中で、通常は差別用語だが親しい黒人の間では使われることがあるNワードを出し意識の高い白人学生に注意され、それが原因で休職処分に、そして母親はアルツハイマーになってしまう。お金に困ったモンクはヤケになり、貧しく学もない逃走中の犯罪者というステレオタイプな黒人像を押し出した偽りの自伝を書いてみたところなぜか評価され、トントン拍子に成功に向かっていく。かなり皮肉なストーリーになっている。

 

モンクが新たなペンネームとして用いる「スタッグ・R・リー」とは、帽子を取られただけで相手を撃ち殺し、その後様々な歌に取り上げられ人気になった100年以上前の人物、リー・シェルトンの通称“スタッガー・リー”のもじりだ。昨今、世間(特に白人)は黒人が差別から解放され、自由に生きられることを諸手を挙げて喜んでいるように見える。だが、同情して罪悪感を紛らわせたいのか、未だに従来の黒人イメージを捨てきれずに黒人をその枠に押し込めようとしているのだ。まさにお手上げ状態である。

 

ところが、本作は「黒人側もその流れに加担しているのではないか?」と問題提起する。モンクは白人たちの“優しさ”を意図的に利用したが、同時に、ある意味その扱いを受け入れてしまったのだ。劇中に登場する、黒人の子どもが自分に似た黒い肌の人形ではなく白い肌の人形を指差している写真もそれを示唆している。黒人の心理学者夫婦であったケネス&マミー・クラークが80年近く前に行った実験風景の写真で、この実験は黒人の子どもでも白人人形の方に良い印象を持ちやすいという結果を示したのである。

 

少し話は変わるが、似た例ではJ・T・リロイなる人物が書いたとされていた『サラ、神に背いた少年』シリーズがある。毒親から壮絶な虐待を受けた悲劇的な少年の自伝という体のこの本は、世間の同情を集めベストセラーとなったが、本当の著者はローラ・アルバートという女性作家で、実体験でないどころかリロイなる人物も実在しない完全な嘘っぱちであることが後に判明したのだ。もっと最近では、 “耳の聞こえない作曲家”としてメディアに持ち上げられた佐村河内守とゴーストライターの新垣隆の騒動が記憶に新しい。感動ポルノという言葉があるように、「かわいそう」は売れるのだ。

真実に基づいているはずの作品が偽りだらけだった場合、受けた感動も全てなかったことになるのだろうか? 我々は真の意味で、作品そのものを評価することはできないのではないか? 「見る目があれば良いものを見極められる」…それこそ、多くの人間が抱いている壮大なフィクション…なのかもしれない。

【ストーリー】
侮辱的な表現に頼る“黒人のエンタメ”から利益を得ている世間の風潮にうんざりし、不満を覚えていた小説家が、自分で奇抜な“黒人の本”を書いたことで、自身が軽蔑している偽善の核心に迫ることになる。

【キャスト】
ジェフリー・ライト、トレイシー・エリス・ロス、エリカ・アレクサンダー、レスリー・アガムズ、スターリング・K・ブラウン 他

【スタッフ】
監督・脚本:コード・ジェファーソン

 

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