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『静かなる侵蝕』没入度でシーンの見え方が変わる!?一風変わったSF(?)ロードムービー

この映画は、つまり―
  • 全編にわたって画面を支配するリズ・アーメッドの存在感
  • 物語に緩急をつける新星たちの演技
  • SF的でありロードムービー的な作品

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◆配信中の注目作 
『静かなる侵蝕』

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文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

Netflixでは毎月、いや、毎週のように新作映画がリリースされているが、同程度のペースとは言えずとも、Amazon Prime Videoでも負けず劣らず個性的な作品が配信されている。本作『静かなる侵蝕』もそうだ。主演を務めるのは、昨年『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』でアカデミー主演男優賞にノミネートされたリズ・アーメッド。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のパイロット役や『ヴェノム』のヴィランを演じていたので、見覚えがある方もいるだろう。

物語はSFのように始まる。宇宙から飛来した隕石より、地球外微生物が地球に降り注ぐ。それは寄生虫で、虫を介して人に感染する。昨年のコロナ禍で、感染症スリラー『コンテイジョン』が約10年前の作品にかかわらず感染症の描写が驚くほどリアルだと話題になったが、本作も冒頭の数分で寄生虫の感染経路を簡潔ながらインパクトある映像で見せる。寄生されても外見が顕著に変わったりはしないが凶暴性が増し、巷では暴動事件も起きている。主人公の海兵隊員マリクには2年会っていない息子(10歳のジェイと8歳のボビー)がいるが、なぜか2人は母親…つまりマリクの妻ピヤと、そしてマリクとは別の男性ディランとともに暮らしている。

ピヤは嘔吐を繰り返しており、心配するジェイに対しディランが何でもないようにこう答える。「ただの“バグ”だよ、心配するな」。「バグ(bug)」とはご存じのように虫のことだが、ここで言っているのは「stomach bug(お腹の虫)」で、「食あたり」を指している。しかし、バグには「微生物」の意味もあり、不吉な予感をさせる。マリクは寄生虫から人間を守るという極秘任務のため息子の暮らす家を訪れるが、連れ出すのはなぜかジェイとボビーだけだ。不審に思う観客を置き去りにして、真夜中、車は遥か遠くの基地に向かって走り出す…。

宇宙生物が人間になりかわるというSFは珍しくない。『SF/ボディ・スナッチャー』、『遊星からの物体X』、『ゼイリブ』…挙げればキリがない。本作も似たような作品かと思えば、父親と息子のロードムービーになっていく。そこから物語もドライブしていくが、そのアクセルとブレーキを踏むのがジェイ役のルシアン=リバー・チョウハンと、ボビー役のアディティア・ゲッダダだ。

冷静で知的なジェイはマリクへの愛と疑念に引き裂かれ、天真爛漫でマリクに似て興奮しやすいボビーは旅にスリルを加える。本当の親子にしか見えない3人のやりとりは時に微笑ましくもあるものの、だんだん旅というより逃避行の様相を呈してくる。はじめは良い父親と思われたマリクだが、徐々に余裕を失い2人に苛立ちをぶつけていく。また、マリクは寄生されていると判断した相手には苛烈な暴力を行使する。その姿を見ていると、こう思えてくる。「寄生された人間とはこういうものだろうか?」と…。マリクは「信頼できない語り手」だ。彼の言うどこまでが本当なのかは分からない。

本作の原題は『Encounter(遭遇)』。SFで「遭遇」というと思い出されるのは、スティーブン・スピルバーグの『未知との遭遇』だ。原題『Close Encounters of the Third Kind(第三種接近遭遇)』が意味するように、UFOに乗った宇宙人とのコンタクトを描いた夢のある作品と思っている方も多いだろう。しかし実際観てみると、主人公はUFOに魅了されるあまり常軌を逸した行動をとるようになり、妻子をないがしろにした挙げ句、“夢”を叶える。誰の立場から物語を捉えるかによって、感想は180度異なってくるだろう。

視点を変えると全く違う物語に見えてくるのは本作も共通している。『未知との遭遇』と違って息子への愛は強く描かれているが、マリクの行動も、周りから見れば説明のつかないことばかりだ。SF的な映像に始まり、ロードムービー的展開になってからは夢が覚めたようにリアルな作風に変わる。だが、マリクに感情移入して観ていれば、ラストショットはきっとSF的としか言いようのない美しい場面に見えるだろう。その設定から、虫が頻繁に出てくる映画ではあるのだけど、旅の終着点に辿り着くまで耐え忍んでいただきたい…というのは虫が良い話だろうか。いや、虫が悪いという話なのだが。

【ストーリー】
勲章受章歴を持つ元海兵隊員のマリクは、人類の危機から二人の息子たちを守るべく救出作戦に乗り出す。車で目的地の基地を目指す父子三人。しかし先に進むにつれ危険は増し、息子たちは日常を捨て、父親と共に闘わなければならなくなる。

【キャスト】
リズ・アーメッド、オクタビア・スペンサー、ロリー・コクレイン、ルシアン=リバー・チョウハン、アディティア・ゲッダダ

【スタッフ】
監督:マイケル・ピアース

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