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『イニシェリン島の精霊』明日の敵は今日の友。この友人関係には、もはや言葉は要らない。

この映画は、つまり―
  • ゴールデングローブ賞とアカデミー賞を賑わせた作品が早くも配信開始!
  • 友人関係を引き裂くのは友人への想い?
  • 現実に繋がるおとぎ話

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◆配信中の注目作

『イニシェリン島の精霊』(2023)

ディズニープラスで視聴するこちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

賞レースを賑わせたあの1月公開の話題作が、早くもDisney+で配信されている。『イニシェリン島の精霊』はゴールデングローブ賞で7部門8ノミネートされ、結果として作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)、脚本賞の3部門受賞となった。アカデミー賞でも作品賞、監督賞など8部門9ノミネートされたが、惜しくも受賞とはならず。しかし、そのクオリティの高さは疑うべくもない。

アイルランドの架空の島を舞台に、世界で最も小さな紛争の幕が上がる。コリン・ファレル演じる主人公のパードリックはいきなり、ブレンダン・グリーソン演じる親友コルムから交友関係の断絶を告げられる。理由が分からないパードリックはコルムにしつこく尋ねるが、取り付く島もない。食い下がるパードリックに、コルムは付きまとうのを止めないと自分の指を切り落としていくと最後通牒を突きつけて…。海を隔てた本土では、ふたりの戦いを演出するかのようにアイルランド内戦の砲火音が鳴り響く。

コルムはフィドル(バイオリン)弾きで、365日ムダ話を続けるパードリックと付き合い続けるよりも、残された人生のわずかな時間で曲を完成させようとする。指切りは本気の度合いを示すためのものだったのかもしれないが、楽器弾きにとっては致命的な条件だ。結局、度を越して純粋なパードリックのせいでコルムは約束を果たさざるを得なくなる。コルムが見せつける手には、4本の指が立っている。まるでカウントダウンのようだ。だが一線を越えた今、その指が意味するのはどのような結末までの距離なのか。友人関係はもう終わったはずだ。では、完全にフィドルが弾けなくなりコルムの存在理由が消えるまでの?

観客はどちらの気持ちも分かるし、どちらの行動にも納得できないという非常に困った立場に置かれる。パードリックが、突然の絶交を受け入れず関係を修復しようとするのは友人が大切だからだ。しかし同時に、コルムの願いを素直に聞き入れる方が真に友人思いの選択であるような気もする。逆に、コルムは自分の人生を全うしたいだけで、突き放した後も寄ってくるパードリックには実際かなり忍耐強く接する。どのような争いも、話し合いで解決できると考える人がいるだろう。だがそれは間違いだ。少なくとも、このふたりにとってはもう静けさだけが唯一の解決法なのだ。一対一の場合ですらそうなのだから、世の中の全ての争いもそうなのかと気が重くなる。

タイトルにある「精霊」とは、正しくはアイルランドに伝わる妖精のバンシーを指している。バンシーは誰かの死を予見するとその人の家の前で泣き叫ぶと言われており、本作にもバンシーらしき人物が登場する。そう言えば、昔の日本にも、葬式で泣くために雇われる「泣き女」がいたそうだ。パードリックとコルム、どちらの態度が正しかったのかは分からないが、自分の葬式で友人ではなく泣き女だけが泣く、なんて寂しい状況にはなりたくないものだ。

【ストーリー】
本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。

【キャスト】
コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン 他

【スタッフ】
監督・脚本・製作:マーティン・マクドナー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
公式サイト:https:// www.searchlightpictures.jp

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