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『ビッグバグ』“虫”を愛せば人生変わる!?ジャン=ピエール・ジュネ流のシンギュラリティが到来!

この映画は、つまり―
  • 『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督による、9年ぶりの新作!
  • 奇妙でファンシーな作風は健在
  • “バグ”を愛せ!

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◆配信中の注目作 
『ビッグバグ』

Netflix視聴ページ ⇒ こちら

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

 

「コンピュータから風邪がうつった」というジョークがある。もちろんこれはコンピュータウイルスと、人体に影響を及ぼすウイルスを引っかけたものだ。感染の心配はないので薬は不要、今さらこんな言葉遊びでクスリとする人もいないと思われるだろうが、侮ってはいけない。2007年には、「携帯電話から致死性のウイルスに感染する」との噂がパキスタンから隣国アフガニスタンにまで広がり、ちょっとしたパニックになったのだ。ちなみに、世界初のコンピュータウイルスはパキスタン人が作ったと言われている。これは一体何のジョークなのだろう。

コンピュータに関する用語には、人間の身の回りのものに関連した単語が数多く存在する。今回、ジャン=ピエール・ジュネが前作『天才スピヴェット』以来9年ぶりに手がけた新作『ビッグバグ』、タイトル中にある「バグ」もそのひとつだ。ご存じの通り、バグ(虫)とはプログラム上の欠陥のことだが、コンピュータが誕生する前から「電気系統の不具合」という意味でエジソンも使っていた言葉だった。そして1947年には、実際にコンピュータの中に蛾が入り込み不具合を起こした、「本物の“バグ”が見つかった最初の事例」が確認された。

本作はそれから約100年後の2045年を舞台にしている。この年はシンギュラリティ(技術的特異点)、つまり1台のコンピュータが人間の脳の100億倍の演算能力を有するようになるとも言われているタイミングだ。全てがコンピュータ制御になり、最新タイプのアンドロイド「ヨニクス」は、人間に動物を演じさせ屈辱を与えるTV番組「ホモ・リディキュラス(ホモ・サピエンスは「知恵ある人」、こちらは「滑稽な人」を意味する)」を放送している。ヨニクスらはついに本格的に人間を支配下に置こうと動き出し、屋外の危険を察知した主人公アリス宅の家事ロボットたちは家を出入り不可能のシェルターにしてしまう。

「機械の反乱」は珍しくないテーマであり、実際未来に起こり得る問題でもあるので大抵の映画ではスリリングに描かれる。しかしそこはさすがのジュネ、『アメリ』のようにキュートながらも奇妙で、多少毒を含んだコメディの雰囲気を崩さぬままストーリーは進んでいく。常に目を見開き、裂けそうなほど口を広げて笑うヨニクスや家政婦ロボット、モニークの演技は絶品だ。彼らのデザインも隅々までジュネ印で、久々の新作ながら従来の作風がしかと堪能できる。

また、「人間になりたがるロボット」もお馴染みの題材だ。ヨニクスと違い人間に友好的なモニークらはネジが数本飛んでいるようにクレイジーだが、たまに的を射た発言をする。「人間らしくなれば信用してもらえる。もし上手くいかなくても成功だ。失敗するのが人間なんだから」。また、アリスらは普段から食用の虫を美味しそうに食べている。“バグ”を愛すこと、それが人間としての人生を謳歌する道なのかもしれない。しかし、このパラドックスはジュネ流の2045年問題だ。また人間とロボットの境目が分からなくなってしまったではないか。

【ストーリー】
2045年、AIが大多数の仕事を担う世界。ロボットが人類に反旗を翻したとき、アリスは家主を守ろうとするアンドロイドたちによって自宅に閉じ込められてしまう。

【キャスト】
エルザ・ジルベルスタイン、イザベル・ナンティ、ステファン・ドゥ・グルート

【スタッフ】
監督:ジャン=ピエール・ジュネ

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