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『隣人は静かに笑う』闇に手を伸ばせば、引きずり込まれて同化する。足跡も残らない。

この映画は、つまり―
  • またもや隠れた良作が配信プラットフォームに潜伏
  • 真実を見失わせるストーリーで観客を計略にかける
  • 観客の(一見)平和な日常を破壊する

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◆配信中の注目作

『隣人は静かに笑う』
配信先:U-NEXTAmazonプライム

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

犯罪者とは往々にして、どこにでもいるような平凡な人物に見える。そして、犯罪者は実際にどこにでもいる。ひとたび映画配信プラットフォームにアクセスすれば、そこら中に犯罪者たちの所業が映し出される。詐欺師に強盗犯、殺人犯……、極めて独特な手口のものもあれば、オリジナリティのない“模倣犯(コピーキャット)”のケースまで。その中で本日取り上げるのは、全米を恐怖に陥れるテロリストの物語『隣人は静かに笑う』だ。筆者の記憶では、本作もDVDレンタルがされていない幻の良作といった立ち位置だったはず。今となってはほぼ配信サービスでしか発掘できないレア映画を拝めるのは喜ばしいことだが、こと本作においては、素直にその喜びに浸るのはいささか早計と言わざるを得ない。

本作の主人公であるマイケル・ファラデー教授は非常に珍しいキャラクターだ。大学でアメリカのテロリズムについて教えているが、講義をよくよく聞いてみると、単純にテロ反対を叫んでいるのではなく国家の信用できなさを説いている。彼の妻はFBIエージェントで、2年前の任務中に死亡した。そして、原因は完全にFBI自身の不手際であると考えており、非を認めないFBIに対して恨みを抱いている。この時点ですでに不穏だが、本作はきちんと最初のシーンから異様だ。冒頭、マイケルは路上でなぜか大火傷を負ったブレディという少年を見つけ、病院へと連れて行く。突然のショックシーンに観客は凍りつくが、マイケルがブレディの親であるオリヴァーとシェリル・ラング夫妻を慰め、実はお向かいさんだった彼らと友人付き合いを始めてからは、不穏さは一旦影を潜める。

しかしマイケルは次第に、建築技師を名乗るオリヴァーの言動に不自然さを覚えるようになり、全てを疑い始める。もしかして、この男は建築技師ではなく、普通の父親でもなく、「オリヴァー・ラング」ですらないのではないかと。オリヴァーの発言の数々をヒントに自ら調査に乗り出すと、芋づる式に予想外の事実が浮かび上がってくるが、恋人のブルックやマイケルの妻の同僚だったウィットに話しても異常者扱いされる。当然だ。プライバシーの侵害もお構いなし、ただ怪しいだけの人物を根掘り葉掘り、一部の隙もなくつまびらかにしようとしているのだから。自分が誰の墓を掘っているのかも知らずに……。

オリヴァー役のティム・ロビンスは純朴そうな童顔をしているが、それ故にミステリアスな俳優だ。今月4Kレストア版が公開される『ジェイコブス・ラダー』でも、ある秘密を抱えたベトナム帰還兵を演じている。マイケルが追いかけるもっともらしい“真実”は、いかにも暴いて欲しそうに手ぐすね引いて待っている。正義感は時にパラノイアと区別がつかず厄介だ。点と点が繋がっ(た気がし)て、隠された“ストーリー”を自分だけが発見し(た気がし)て、それを信じ込む。犯罪者はどこにでも隠れている。自分の近所にも、と……。善き人でいようとするほど、我々はこの罠にハマる。自戒しなければ……え? 「一体マイケルとオリヴァーのどっちの味方なのか」? もちろん決まっている。では、あなたはあなたの見方で応援したい方の味方をすると良い。きっと見事に、本作を鑑賞した日の気分とこれまでの世界の見え方が破壊されるだろう。飯テロなんて言葉があるが、本作もまごうことなき映画テロなのだ。ああ。だから言ったのに。

【ストーリー】
アメリカのテロリズムについて教えている大学教授のマイケルは、2年前にFBIエージェントの妻が亡くなった事件を引きずりながら幼い息子グラントと暮らしていた。ある日、マイケルは路上で大火傷を負った少年ブレディを助けたことで、その親である隣人のラング夫妻と交流を深めるようになる。グラントとブレディも友人となるが、マイケルは次第にラング夫妻が素性を偽っているのではと疑い始め……。

【キャスト】
ジェフ・ブリッジス、ティム・ロビンス、ジョーン・キューザック、ホープ・デイヴィス、ロバート・ゴセット、メイソン・ギャンブル、スペンサー・トリート・クラーク、スタンリー・アンダーソン 他

【スタッフ】
監督:マーク・ペリントン

 

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