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『スマホを落としただけなのに』スマホは最も口の軽い親友。中田秀夫監督による大ヒットミステリーの韓国版リメイク。

この映画は、つまり―
  • オリジナル版はミステリー、リメイク版は要素を上手く入れ替えたサスペンス
  • どれだけスマホが大事でも、スマホはあなたのことなどどうでも良い
  • それでもスマホ、手放せますか?

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◆配信中の注目作

『スマホを落としただけなのに』(2016)

Netflixで視聴するこちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

あなたという人間を知るためには何文字必要だろう? 100字? 1000字? それとも、言葉ではとても言い表せない? いや、実際にはいくつかの数字で事足りる。占いの世界には、生年月日の数字を分解して足し算すると導き出せる魂の数字「ソウルナンバー」がある。多くて8つの数字を計算して出てきた答えがその人の性格や運命を示しているというのだ。「事実ではない」と? 確かにその通りだ。本当は数字8つも必要ない。6つで良い。もしかしたら、もっと少なくても良いかもしれない。それを使ってあなたのスマホをアンロックすれば済む。誰もがスマホを持ち歩く現代では、パスコードさえ分かればその人の交友関係や普段隠している本音、別の暗証番号まで知れる。パスコードを自分の誕生日ならば、それがまさに“ソウルナンバー”となることだろう。

2018年には日本で、タイトル通りスマホを落としただけなのに目も当てられないほど悲惨な目に遭うカップルを描いたスリラーが作られヒットした。本作はその韓国版リメイクだ(ソウルだけに…とか言っている場合ではない)。日進月歩であるテクノロジーを扱った作品は数年で古びてしまうため、それだけでもリメイク版を作る意義はあると言えるが、そこはさすが韓国映画。オリジナル版以上のスリルがあるし、オリジナル版を知る人が退屈しないよう設定や展開が改変されている。しかし、オリジナル版のいくつかの要素は上手く別の場所に配置されている。同じピースを入れ替えて別の絵柄になったパズルのようだ。その結果、ジャンルまで変わっている。

オリジナル版はミステリーで、怪しい人物が多数登場するため、後半まで主人公(田中圭)のスマホを拾う、巷を騒がせている連続殺人の犯人が誰か分からない。しかし何と、本作では最初から観客に顔を見せてしまう。ネタバレにならないので言ってしまうと、犯人はイム・シワン演じる男だ。彼は今年はじめに公開された『非常宣言』でも非常に気味の悪いサイコなテロリスト役だったが、今回も同じく何を考えているか分からない。スマホを落とすのは『哭声/コクソン』に出演していたチョン・ウヒ演じる女性ナミで、オリジナル版と違って恋人はおらず、恋愛要素もない。つまり、明らかな犯人があの手この手でナミを追い詰めていくのを、観客は傍観するしかないのだ。本作の犯人はオリジナル版のように分かりやすいイカれ方はしていないが、そのせいで緊張感が桁違いに増している。

オリジナル版に、「太陽が爆発しても人間は8分間気づかない」という旨のセリフがある。太陽の光と熱が地球に届くまで8分かかるからだ。同じように、落としたスマホが悪人に拾われてしまえば、自分が気づかないうちに人生が終わり始める。8分で発覚すれば早い方だが、だからといって崩壊が止まるわけではない。我々はスマホに親友のように何でも教えるが、その“親友”の口は堅くない。持ち主を認識さえしていない。スマホは合言葉さえ合っていれば、誰でも持ち主認定してくれるのだ。壁に耳あり障子に目あり。スマホにはマイクがあり、カメラがあり、ついでに情報を世界中に発信する“口”まであるというのに。

スマホは今や持ち主の心の具現化とも言うべきポジションを得ている。SNSで悪口を呟けば、それがその人の本音に見える(自慢話は誇張に見えるのが皮肉だが)。人は心を捨てることはできない。これからもスマホを持ち続けるだろう。心を弄ぶ心ない人に拾われるまで。実は、サスペンスである本作にも最後まで解けない謎がひとつある。しかし、きっとそれだけは解いてはいけないパズルなのだろう…。

【ストーリー】
ホラー映画の巨匠・中田秀夫監督が志駕晃のミステリー小説を映画化した2018年のヒット作を、韓国に舞台を移しリメイク。スマホ社会ならではの、誰にでも起こり得る恐怖をスリリングに描く。

【キャスト】
チョン・ウヒ、イム・シワン、キム・ヒウォン、パク・ホサン、キム・イェウォン、チョン・ジノ 他

【スタッフ】
監督:キム・テジュン
原作:志駕晃 『スマホを落としただけなのに』

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