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【配信エンタ】『しあわせな選択』 斧で、大鉈で切られても、人間は死なない。不幸にも。

この映画は、つまり―
  • 韓国映画の巨匠パク・チャヌクが描く、中年失業者の悲哀
  • 社会的に死んでも人生は続く
  • 本当は、選択肢は常にある

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◆配信中の注目作

『しあわせな選択』
配信先:U-NEXT

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

英語には「ゲット・ジ・アックス」、直訳で「斧をもらう」という慣用句がある。もちろん実際には文字通りの意味ではない。この斧で切られるものは何か? 首だ。そう、日本で解雇されることを「首を切られる」と表現するのに非常に近い。難しい言葉では「馘首(かくしゅ)」とも言う(ちなみに、「馘」はもともと敵の兵士などを討ち取った証拠に左耳を切り取って持ち帰った慣習を意味する字)。現代で仕事を失うことは、社会的な死と言っても過言ではないだろう。振るわれた大鉈の餌食になった人たちの首が回らなくなる前に、その瞬間に物理的にもスパっと首が飛んで天国に行けるなら、それほど大きな問題にはならない。労働という名のくびきから解放されるのだから。もしくは、火車やろくろ首にでも化けて恨みを晴らしに行けるならそれでも良い。ところが案外人間はしぶとく、自分で首を括らなければ、首の皮一枚でその後もしばらく人生は続く。

 

本作『しあわせな選択』で描かれるのは、中年にして会社から放り出されてしまった男の悲喜劇だ。製紙工場勤務で長年、神ならぬ紙に人生を捧げてきたマンスは、会社の買収によってお払い箱となってしまう。せっかく手に入れたマイホームや家族との幸せな生活は決して揺るぎないものなどではなく、吹けば飛ぶようなものだったのだ。別の製紙会社へ転職をしようにも、彼の首はすげ替えられたわけではない。どこもかしこも人員削減の流れで、根っからの紙人間である彼を受け入れる“ポスト”はない。だがある日、思案投げ首だったマンスに名案が浮かぶ。同じように業界を首になった者をひとり殺せば、椅子に座れる確率が上がるのでは?

まるでブラックなコントのような設定だ。だがもちろん、これを実行しようにもマンスはいかんせんただの善人。スマートな殺人計画は立てられないし、人の首を刎ねるにはそのペラペラな覚悟では軽すぎる。奇しくも、この思いつきはマンスが会社から受けた所業に似ている。さらに皮肉なことに、マンスが標的に選んだライバルたちは皆、マンスと同じく紙に人生を捧げた男たちばかりだった! 元凶の会社に反撃するべきところなのに、ある意味では仲間に刃を向けているのだ。結果、マンスは寝首を掻くべき相手の人生に首を突っ込んではそのどん底っぷりに共感し、余計に頭を悩ませていくが、いくら首を長くして待とうとも事態は何も好転しない。家だけならまだしも、家族まで失えないマンスは首の代わりに腹を括り、ようやくその鎌首をもたげる……。

マンスの哀しさは、紙に対して長年続けてきた仕事としての誇り以上に、マニアとしての愛情を抱いている点にある。製紙業界を諦めて別の職に就くという考えがまるでないのだ(とても他人事と思えない)! しかし、「他にどうしようもない」という意味の原題は彼の気持ち、引いては会社の言い分から来ているが、本当にそうだったのだろうか? あなたはマンスの選択に対し首を縦に振るか、それとも横に振るだろうか。製紙業界に限らず、これまで当たり前に存在してきた職業がいくつもその姿を消そうとしている。この文中にもありったけの首を並べてきたが、明日は我が身と泣きながら、笑いながら本作を見なければならない状況は割とシャレになっていない。本当に殺しはしなくとも自分が再就職できれば他の誰かが救われないわけで、間接的に殺人を犯しているような気にもなるし……。その罪を償うために首の座に直るか? ……とは言え人間、そこまで利他的にはなれないのがネックなんだなあ。

【ストーリー】
「全てを叶えた」。製紙会社で25年間、堅実に仕事をしてきたマンスは、心からそう思い、妻と2人の子供、2匹の犬と郊外の大きな家で“理想的”な人生を送っていた。突然、会社から解雇されるまでは。必死に築いてきた人生が、一瞬のうちに崩壊!? 好調の製紙会社への就活も失敗したマンスが閃いたのは、衝撃のアイデアだった。それは……「ライバルがいなくなれば、仕事は手に入る」。

【キャスト】
イ・ビョンホン、ソン・イェジン、パク・ヒスン、イ・ソンミン、ヨム・ヘラン、チャ・スンウォン 他

【スタッフ】
監督:パク・チャヌク
脚本:パク・チャヌク、イ・ギョンミ、ドン・マッケラー、イ・ジャヘ

 

★配信エンタの過去記事はこちら

『ザ・コンサルタント2』人間は決して一面的なものじゃない。そして、それは映画も同じ。

『コンパニオン』運命を、“愛”を超えろ。真の“わたし(I)”になるために。

『室町無頼』これは時代劇の皮をかぶったアウトローたちの生存劇だ!

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