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『ゴジラ-1.0』その青き光が、人々の心を絶望で黒く染め上げる。これはゴジラと、人間という生きものの記録。

この映画は、つまり―
  • 今回のゴジラが意味するものとは?
  • 圧巻の映像で描かれる日本人の絶望
  • 人類が開けてしまったパンドラの箱の底に残ったものは……

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◆配信中の注目作

『ゴジラ-1.0』

Prime Videoで視聴⇒こちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

映画と直接何の関わりもない話から始めてしまい恐縮だが、筆者にとって最近一番嬉しかったニュースは、4年ほど休載が続いていた漫画『パンプキン・シザーズ』の連載再開である。この作品についてご存じの方は多くないかもしれないが、筆者はこれまで読んできた漫画の中で最も素晴らしいと思っている……、いや、別に宣伝のためにここでわざわざ話したのではない。たまたまながら、『ゴジラ-1.0』とテーマ的に通ずるところがあると感じたからだ。『パンプキン・シザーズ』は架空の国を舞台にした、ミリタリーと少しのダークファンタジーを混ぜたようなテイストのアクション漫画で、そういった意味では『鋼の錬金術師』にも似ている。ただ『パンプキン・シザーズ』が特殊なのは、主人公が軍人ながら戦災復興部隊に属している点だ。

共通するテーマと感じたのはまさにここ。ゴジラの基本設定は、元々は太古の昔から生き残っていた恐竜のような生物だったのが、ビキニ環礁の水爆実験で被爆し今のような怪獣の姿になったというものだ(初代『ゴジラ』では、水爆実験のせいで住処を追われたため現れたとされている)。つまり核を象徴していると一般的に言われ、『シン・ゴジラ』では“歩く原発”のように描かれていた。もっとフラットな視点で見れば、どう考えても普通の動物でないので荒ぶる神的存在ということになるだろう。ゴジラ映画は一種のディザスター映画で、ゴジラは災害(天災・人災)。では、『ゴジラ-1.0』の場合は? 本作では、核であるとともに戦争そのもののイメージも背負っている。そう、「戦災」だ。

『パンプキン・シザーズ』において、戦災は“もうひとつの戦争”と表現されている。終戦となっても、戦争の、ゴジラの爪痕が人々の暮らしに残っている限り、戦争はまだ終わっていないのだ。本作の主人公・敷島(神木隆之介)は、特攻作戦に身を投じる覚悟を決めきれずに生き延びてしまった軍人で、最初に大戸島でゴジラと遭遇するもやはり戦えずに仲間を殺されてしまう。終戦後に本土に戻るも、自宅は戦火で焼かれ、家族も隣人のほとんども亡くなってしまい、なぜ自分だけおめおめと生き永らえてしまったのかとサバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)に苛まれる。同じく家族を亡くした若い女性・典子と彼女が引き連れた幼子・明子と仕方なく同居を始めるが、ゴジラの悪夢が敷島を許してくれない。ゴジラは、敷島にとって罪悪感の象徴でもあるのだ。ゴジラが生きている限り、敷島の“戦争”は終わらない。

ハリウッド版のゴジラ、特に今上映中の『ゴジラxコング 新たなる帝国』などを見ると一目瞭然だが、ゴジラは無敵である。コングですら勝てるかどうか怪しいのだから、普通に考えて人間ぽっちが勝てるはずがない。さらに、本作のゴジラは瞬間再生能力まで獲得している。皮肉なことに、原子力を“再生可能エネルギー”へと変えたわけだ。これ以上なくシリアスな展開と言える。ゴジラが典子のいる銀座を襲い、青く輝く熱線を吐いて全てを更地にするシーンは圧巻のCGアクションでありながら、我々の目には銀座に3発目の原爆が落とされたように映る。その後、慟哭する敷島を黒い雨が打つのも容赦がない。さすがに放射線障害についてはそれほど描かれないものの、十分すぎるほどの追い込み方だろう。

 

一応、エンタメ作品らしい箇所はきっちりあり、ゴジラが人々に噛みつき数十メートル先へ吹っ飛ばす様子はまるで『ジュラシック・パーク』、海で背びれだけを見せながら静かに戦艦に近づく姿は『ジョーズ』。山崎貴監督は、憧れのスティーブン・スピルバーグ監督本人からも本作の出来を褒められたようで鼻高々だろうが、ゴジラが活躍すればするほど観客含めた人間サイドは絶望に叩き落とされるので、心が引き裂かれる思いだ。しかし、爆弾でも倒せないゴジラのあっと驚く撃退法が提示されてからは、ようやく気分も高揚してくる。詳しくは言わないが、人々は特攻という“死ぬための戦い”でなく……、ちょうど原爆を扱った『オッペンハイマー』が上映中で、やはり本作を絶賛しているクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』的な“生きるための戦い”をするべくゴジラに立ち向かう。

いや、『スカイウォーカーの夜明け』的な、と言おうか。まさに、これが日本の夜明けなのだ。最も暗い、戦争という夜の暗闇からの。「敷島」とは、ただの名字ではない。軍艦の名前でもあるが、日本の古い国号、つまり日本そのものを指す言葉なのだ(敷島の仲間となる艇長の名「秋津」も同じ)。ゴジラという戦争を克服して初めて、日本はやっと復興を迎える。ただし、本作は安易なハッピーエンドで終わらない。一度夜が明けても、またいつか夜はやって来る。映画が終わっても、不吉な予感を残したままだ。それはある意味当然で、我々はいつまた戦争ないし核の恐怖に脅かされるか分からない。だが、敷島たちの生き様を忘れてはいけない。かの黒澤明が核の恐怖を描いた作品に引っかけて言うならば、このゴジラという、そして人間という名の“生きものの記録”を、我々は忘れてはいけないのだ。

【ストーリー】
ゴジラ七〇周年記念作品。太平洋戦争で焦土と化した日本で、人々が懸命に生きていこうとする中、突然現れた謎の巨大怪獣が復興途中の街を容赦なく破壊していく。残された名もなき人々に、生きて抗う術はあるのか。

【キャスト】
神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介

【スタッフ】
監督・脚本・VFX:山崎貴
音楽:佐藤直紀
製作・配給:東宝
制作プロダクション:TOHOスタジオ、ROBOT
©2023 TOHO CO.,LTD.

 

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