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実写映画『テトリス』/世界で最もシンプルで有名なフェア・ゲームの世にもややこしい裏側に迫る!

この映画は、つまり―
  • 誰もが知るあの「テトリス」の、誰も知らない実話
  • 権利関係の複雑さと大切さがよく分かる…
  • ゲームが繋ぐ友情は国境を超える!

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◆配信中の注目作

『テトリス』(2023)

Apple TVで視聴するこちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

伝説的なテーブルトーク・ロールプレイングゲーム原作の『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』が公開され、これまた伝説的なビデオゲーム原作の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の公開を目前に控える今。決して忘れてはいけない、もうひとつの伝説的ビデオゲームにまつわる映画がApple TV+でひっそりと配信されている。それは『テトリス』だ。上記作品のようなゲーム自体の映画化ではなく、2015年公開の『ピクセル』のような、「パックマン』などのゲームが登場するSF映画でもない。「テトリス」が任天堂によって発売されるまでの権利の奪い合いを描いた、驚きの実話ものだ。

パズルゲーム、特に“落ち物パズル”と呼ばれるジャンルの元祖である「テトリス」を知らない者はいないだろう。落ち物パズルでは基本的に、画面の上から落ちてくるオブジェクトを上手く動かして、決められた形に整えることで点数を稼いでいく。「ぷよぷよ」や、少し変わり種の「ミスタードリラー」などは同ジャンルのヒット作である。4マスのブロックを横一列に敷き詰めていく“だけ”の「テトリス」は、限りなくシンプルで誰にでもプレイ可能なフェアなゲームだ。では、このゲームがどの国で作られたかご存じだろうか? 赤いパッケージに、耳に残る独特の音楽…。「テトリス」と聞いて多くの方が思い出すであろうアノ曲は「コロブチカ」という。メロディと曲名の語感からピンと来たかもしれない。そう、元はソ連のゲームだったのだ。

任天堂と組んで「テトリス」を世界的に販売しようとするビジネスマンのヘンク・ロジャースは、『キングスマン』シリーズのタロン・エガートンが演じている。「テトリス」の可能性に惚れ込んだロジャースは、オランダ・インドネシア系のアメリカ人で日本人の妻と日本在住…と中々複雑な出で立ちで、今後のややこしい展開を象徴しているようだ。欧米のものにずっと劣るコンピュータでこの画期的なゲームを生み出したのは、ソ連のコンピュータエンジニアであったアレクセイ・パジトノフ。しかし共産主義のため著作権は本人ではなく国営企業Elorgが有しており、ロジャースは単身ソ連に乗り込みElorgと交渉を始める。

ロジャース以外にも「テトリス」に目を付けた競争相手がいたのだが、契約上の認識の違いから「権利を買った」「いや売っていない」論争に発展。また、資本主義を排除しようとKGB(秘密警察)まで介入してくる。面白いのは、共産主義の中で生きていても先はないと考え、ソ連のためと謳いながら自分の利益優先で動くソ連人の存在だ。鉄のカーテンの向こう側にも、金色の光が差し込んでいたらしい。権利関係が曖昧な状況で、「テトリス」は得た者に成功を約束するフェア・ゲーム(格好の標的)となったのだ。この争いが起こっていたのがソ連崩壊の数年前というのも味わい深い。

先の読めないスリリングさがありながら、エガートンが時折話すカタコトの日本語や、「コロブチカ」を思わせる劇伴、「テトリス」のブロックで表現される映像によってゲームをプレイするような楽しさが失われない快作となっている。あまりにエンタメ的な作品なのでもしやと思ったら、実際KGB周りの描写は実際よりもかなり脚色してあるらしい。だが、純粋に「テトリス」の面白さで繋がったロジャースとパジトノフの友情は最もウソのように見えて真実だ。「ゲームは何の役にも立たない」と言われた経験のあるゲーム好きには嬉しい話だろう。ちなみに、ゲームのやりすぎで現実や夢がそのイメージに支配されることを「テトリス効果」と呼ぶ。鑑賞後はきっと、この『テトリス』を思い出さずにはいられない。

【ストーリー】
アメリカのビデオゲームセールスマン、ヘンク・ロジャースと、彼が1988年に見いだしたテトリスを巡る実話を基にした作品。このゲームを世界に発信しようとしたヘンクは、張り巡らされた嘘と鉄のカーテンに隠された腐敗した世界に足を踏み入れることになる。

【キャスト】
タロン・エガートン、ニキータ・エフレーモフ、トビー・ジョーンズ、ソフィア・レベデヴァ、アンソニー・ボイルズ、ベン・マイルズ、文音 他

【スタッフ】
監督:ジョン・S・ベアード

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