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『地獄のサーファー』 人生は波乱万丈。それでも乗るしかない。このビッグウェーブに。

この映画は、つまり―
  • サーフィンしたかっただけなのに……。サーフィンさせてもらえないサーフィン映画
  • 意味が分からないほどの映像美
  • ニコラス・ケイジの顔芸に波と腹筋がブレイク

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◆配信中の注目作

『地獄のサーファー』
配信先:huluwowow

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「波乱万丈」とはご存じ、物事の浮き沈みが激しいことをいう。「波瀾万丈」とも書くが、ここで「波」は小さな波、「瀾」は大きな波、「万丈」は長さの単位である丈(約3メートル)の1万倍を意味している。つまり、非常に高い様々な波が押し寄せるイメージだ。帆に追い風をいっぱいに受けて船が進んでいくイメージの「順風満帆」が対義語といっても良さそうなくらい、どちらも文字から情景が鮮明に浮かんでくる。そして本作『地獄のサーファー』において、奇しくも「波乱万丈」は文字通りの意味で用いられている。その人生の大波小波に翻弄されるのは我らがニコラス・ケイジだ!

本作は不思議な映画で、サーフェス(表面)だけを追おうとすると一体何の話か分からなくなっていく。一言で表せば不条理劇。理由も不明のまま、ケイジが嫌がらせを受けて苦しむ(サファー)様を見せられ続ける映画だからだ。彼が演じるキャラクターに名前はなく、「サーファー」とクレジットされており、その“名”の通り、なぜか彼は全編を通じてサーフィンをすることに全力を注いでいる。冒頭、あまり仲が良くなさそうな息子を連れ自身の故郷へ久々に帰ってきたサーファーは、海を一望できる住宅を購入し家族で住む夢を語る。そして息子とサーフィンをしに地元のビーチにやってくるが、そこには異常に余所者を嫌う男たち“ベイ・ボーイズ”が幅を利かせており、ビーチの利用を許してくれない。それでも、息子にすら呆れられながらもサーフィンに執着し続けるサーファーは、何度もベイ・ボーイズの手段を選ばない妨害に遭う。本当にそれだけの映画(に見える)のだ。

ではつまらないのかというと、確かに人は選ぶがかなり個性的で面白い。ケイジをキャスティングしたのがハマっており、とっつきにくいはずの不条理劇がいつものケイジの顔芸で笑えるブラックコメディに様変わりしている。はじめはそれなりに裕福に見えたサーファーは、妻とは離婚の危機にあり、息子からの尊敬は得られず、炎天下のビーチ駐車場で粘り続けるため水も食料も車のバッテリーも枯渇していく。じゃあ一度物資を取りに帰れば良いのに、とも思うが、本作ではビーチとビーチの駐車場しか映されない。何とも寓話的だ。そのうち衣服までもが奪われていき、ホームレスにしか見えない状態にまで落ちぶれていく。

ところが、だんだん貧相になっていくサーファーとは対照的に、映像はどこまでも美しい。全ての色がビビッドで、男たちの焼けた肌なんて太陽の日差しがそのまま反射しているようだ。肝心のサーフィンは描かれないくせに、打ち寄せるエメラルドグリーンの波の煌めきはまるで本物の宝石だ。これがどこか不気味なのは、監督のロルカン・フィネガンが以前に撮ったSFスリラー『ビバリウム』のイメージカラーにそっくりだからだろう。無数に家がコピペされたような住宅地から抜け出せなくなる同作同様、本作のカメラもビーチにとらわれている。

白昼夢的な映像に観客がクラクラしていると、疲弊したサーファーの意識もさざ波のように、陽炎のように揺らぎ始める。すると妄想か過去か判別のつかない映像が時折挿し込まれ始め、疑念渦巻くサーファーの主観に付き合わされる羽目になるのだ。彼の人生に何があり、本当は何を求めているのか。分かりにくい映画に思えても、波は一般的に分かりやすいメタファーでもある。世間の荒波、寄せては返す浮世の波……。乗りこなしているうちは良いが、波にさらわれれば此岸への帰還は叶わない。少なくともはっきりしているのは、彼の人生は凪などではなかったということだ。幸せは泡沫、重要なのは潮時。もしかしたら、我々全員がサーファーなのかもしれない。気を付けなければ。波を読み間違えて、大海の真ん中を泳ぐひとにならないように……。

【ストーリー】
久々に故郷に戻ってきた男(サーファー)は、息子とともにサーフィンを楽しむため美しいビーチを訪れる。しかし、そこは排外主義のカルト的な男たちに支配されていた。サーファーはあの手この手でサーフィンを阻止してくる男たちの暴力と悪意にさらされ続けるうち、次第に現実と妄想の境目が分からなくなり……。

【キャスト】
ニコラス・ケイジ、ジュリアン・マクマホン、ニック・カッシム、ミランダ・タプセル 他

【スタッフ】
監督:ロルカン・フィネガン

 

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