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『セイント・モード/狂信』天は自ら助くる者を助く。小さき聖人モードの“善行”と“神秘体験”を記した血も凍る伝記。

この映画は、つまり―
  • 尖った作品の数々で知られる話題の映画スタジオ、A24配給の宗教ホラー
  • 観客を主人公の狂気に巻き込んでいく映像表現
  • イギリス人監督らしい皮肉のこもった視点で描かれるキリスト教

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◆配信中の注目作 

『セイント・モード/狂信』

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文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

 

本作の配信を知って、「ついに!」と思った映画ファンの方もいるだろう。ユニークかつ質の高い作品を観客に届け、独自の地位を築いている映画スタジオA24が全米配給を担っているが、2019年に発表されたにもかかわらず一向に日本公開が決まらなかった作品だったからだ。予告編で使われた曲はビリー・アイリッシュの『all the good girls go to hell(良い娘はみんな地獄行き)』。A24作品で宗教ホラーと言えば昨年公開の『ミッドサマー』が記憶に新しいが、本作では一体どんな阿鼻叫喚の地獄が待ち受けているのだろうか?

敬虔なカトリックで、トラウマを抱えた看護師モードは孤独だ。悩みを分かち合える友人はおらず、帰るべき家もないらしい。彼女は、悪性リンパ腫で死にかけている無神論者のアマンダを住み込みで世話することになる。献身的に看護しながら、魂だけでも救うため信仰を持たせようとするが「笛吹けども踊らず」(マタイ伝11章16~17節)。モードの奮闘も空しく、死から逃避するように享楽に耽るアマンダには、信仰など「豚に真珠」(マタイ伝7章6節)だったのだ。使命を果たせず追い詰められたモードはある日「目から鱗が落ち」(使徒言行録9章18~19節)、アマンダの本当の“正体”に気づくが…。

ストーリーはモードの主観視点で語られていく。神はモードのすぐ側におり、グラスに入ったビールの渦巻きなどの形でふと表れ、その度に恍惚感をもたらす。周囲の喧騒に惑わされない孤独な彼女だけが、小さな神の声を聞くのにふさわしい存在なのだ。アマンダの魂の救済を神から与えられた使命と考えるモードは、まさにセイント(聖人)。しかし、そんな崇高な理念も実際は「砂上の楼閣」(マタイ伝7章26~27節)で、孤独の善意は独善的としか言えない形で暴走していく。

本作はイギリス出身の女性監督ローズ・グラスの作品だ。キリスト教に囲まれて育ちながら信心深い人間ではないと語る彼女は、観客をモードと一体化させようとしながら、同時に毒を含んだ描き方もしている。モードは鞭打ちこそしないが、自らを様々な方法で痛めつける。そうして信仰心を高めようとしているのだ。それを止める術を持たない我々は、良い意味で非常に嫌な気分にさせられる。…鑑賞体験をより味わい深いものにしていただくため、ひとつヒントを。モード役のモーフィッド・クラークはウェールズ出身だが、劇中にウェールズ語を話す人物がもうひとり登場する。それは誰だろう?

【ストーリー】
住み込み看護師のモードは、病に侵され独り豪邸に暮らす有名ダンサーのアマンダを看護することになる。アマンダは病状の悪化を紛らわせてくれる信心深いモードに興味を惹かれ、モードもまたアマンダの魂の救済にのめり込んでいく。しかしモードは過去に、神のお告げを信じ問題を起こしたという秘密を隠していたのだ。やがてモードは、自分がアマンダの元に派遣されたのは神の意志を全うするためだと確信する。現実からの乖離に歯止めが効かなくなった彼女の看護は、手段を選ばない危険な“手当て”と化していく――。

【キャスト】
モーフィッド・クラーク、ジェニファー・イーリー、リリー・フレイザー、リリー・ナイト

【スタッフ】
監督・脚本:ローズ・グラス

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