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『地獄が呼んでいる』ここに映っているのは地獄か?現世か?神の怒りに触れて己が罪を悔い改めよ!

この映画は、つまり―
  • 『新感染 ファイナル・エクスプレス』の監督が描く新たなる“地獄”
  • 新興宗教団体とカルト集団が織りなすクレイジーなハーモニー
  • 他の人と感想を語り合いたくなる、多角的な物語

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◆配信中の注目作 
『地獄が呼んでいる』(2021)

Netflixで視聴するこちら

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

『地獄が呼んでいる』は、ゾンビパニック映画『新感染』を監督したヨン・サンホの新作ドラマだ。『新感染』の英題は『Train to Busan(釜山行き)』だったが、本作の英題は『Hellbound(地獄行き)』。確かに、これまで以上とも言える阿鼻叫喚の様相が描かれている。

始まりはこうだ。突如、“天使”のような存在から、詳細な日時とともに地獄へ行くと告げられた人々が登場する。実際にその時刻になると“地獄からの使者”が3体現れ、該当者を拷問とも言えるレベルで痛めつけ、掌から発射される光線で肉体を焼き尽くし、去っていく。その場にいる者は巻き添えを食うし、その光景はトラウマものだ。 “使者”のビジュアルがゴリラやハルクに近いのでエンタメっぽくはあるのだが、見るからに極悪人というわけではない人がそんな目に遭うのを見ると、こちらも非常にいたたまれなくなる。もはや災害に近い。竜巻が過ぎ去った跡に立ち会っているかのようだ。

本作で描かれる社会は少々ややこしい。この超常現象は新興宗教団体「新真理会」によって、キリスト教で言うところの原罪(神に逆らって知恵の実を食べたアダムとイブのせいで、その子孫である人類全体が背負うことになった罪)ではなく、本人の悪行によって下される“神の裁き”とされている。これは日本人にも分かりやすいところだろう。そして、新真理会とは別に、その考えに感化された「矢じり」という暴徒も登場する。悪を滅ぼすためならどんなことをしても正義と信じている連中だ。このとんでもないカオスと化した世界に観客は放り込まれる。

そもそも「阿鼻叫喚」とは、仏教でいう阿鼻地獄と叫喚地獄にちなむ言葉だ。どちらも、殺生などの罪を犯した者が落ち、永遠とも言えるほど長い間、耐え難い苦痛に苛まれる場所である。しかし、本作で地獄に落とされるのは、もっと軽い罪を犯した者ばかりだ。つまり、詐欺だろうとなんだろうと、死刑一択。神の意志と言うが、これはどう考えても現実世界よりひどい。矢じりは、本格的に世直しを始めたらしい神の意図を汲み、まだ法によって裁かれていない罪人をリンチする“神の軍隊”だ。こういう、正義感から他人を攻撃する人々は実際に存在し、「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー(社会正義戦士)」などと呼ばれている。ヒーローとは表裏一体のビジランテ(自警団)だ。自分たちのリンチ行為は全く犯罪だと思っていない。実は、本作では人々が落とされた地獄の様子は全く描かれない。当然だ。すでにこの世こそが地獄なのだから!

結局、人間は神の真意を理解することはできない。できるのは、事象の解釈だけだ。新真理会は、「“神の裁き”を受けたくなければ、善く生きるしかない」と言って信者を扇動する。理解はできる。だがそれが正しいのか? 善行は、「罰を受けない」という目的に対する手段でしかないのか? また、矢じりの行動にも共感できる部分がある。罪の大小は問わず、罪人が懲らしめられているのを見ると正直スカッとするだろう? だが、私刑を認めると社会は法治国家以前に逆戻りする。それでも、我々はよくそういう映画を観て溜飲を下げる。人間は常に、退化の可能性と隣り合わせにある。本作は奇天烈な物語のようでいて、非常に多くのことを考えさせてくれる。人によって見え方が違う万華鏡だ。この機会に、地獄と現世、どちらがマシかをじっくり考えてみるのはいかがだろう。

【ストーリー】
この世のものではない“何か”が突然現れ、人間たちを地獄へと突き落とす…。人々が恐怖におののく中、この現象を神の裁きだと主張する宗教団体が台頭し始める。

【キャスト】
ユ・アイン、キム・ヒョンジュ、パク・ジョンミン

【スタッフ】
監督:ヨン・サンホ
脚本:ヨン・サンホ、チェ・ギュソク

 

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