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『オールド・ナイフ ~127便の真実~』人生はワインのよう。大人向けの渋いラブストーリー×スパイサスペンス。

この映画は、つまり―
  • クリス・パイン&タンディ・ニュートンのアダルトなラブストーリー
  • アクション一切なし! 一風変わったスパイもの
  • ワインのような味わい深さ

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◆配信中の注目作 
『オールド・ナイフ ~127便の真実~』(2022)

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

 

本作は一風変わったスパイ映画である。サスペンスはあれど、アクションはない。主演のクリス・パインが過去出演した有名なスパイキャラクター、ジャック・ライアンの映画化作品『エージェント:ライアン』や、ヒロインを務めたタンディ・ニュートンが過去出演した『ミッション:インポッシブル』シリーズとは全く違うが、実に味わい深い大人向けの作品だ。

CIAの優秀なスパイである主人公ヘンリーは、上司に命じられて8年前の事件を再調査することになる。彼らの奮闘も虚しく、テロ組織にハイジャックされたトルコ航空127便の乗客をひとりも救うことができなかった苦い事件だ。忘れたいのに忘れさせてくれない状況に陥ってうんざりするヘンリーだが、問題はそれだけではない。どうやらCIA内にテロ組織と繋がっていた裏切り者がいたようであり、かつての仲間たちを疑わなければならなくなるのだ。そしてその中には、当時恋人だったシリアも含まれていた…。

『オールド・ナイフ(原題は『All the Old Knives』)』というタイトルは直接内容に関わってこないが、元々は1世紀に活躍したローマの寓話作家パエドルスの作品に由来するらしい。パエドルスは、古代ギリシャのアイソーポス(英語読みはイソップ)が作ったとされるイソップ寓話のラテン語翻訳を行った人物である(ちなみに、アイソーポスの出身地は今のトルコとも言われる)。ギリシャ語による原典は現存していないので、彼がいなければ我々はイソップ寓話について知ることができなかったかもしれない。「酸っぱい葡萄」は有名なのできっとあなたもご存じだろう。

物語の現在の舞台は、ヘンリーとシリアが8年ぶりの再会を果たすレストラン「VIN DE VIE」(フランス語で「人生のワイン」)だ。2人の会話から過去に埋もれた真実が徐々に明らかになっていくというスタイルなので、映画のほとんどは回想シーン。画面は非常に静的だが、含まれる情報は実に芳醇である。今やシリアは別の男性との家庭を持っているが、ヘンリーは、なぜ互いに深く想い合っていたはずのシリアが事件後に自分のもとを去ったのか未だに分からないでいる。事件の真相は別れの真相とも関係しており、事件は人生最高の瞬間と最悪の瞬間が交差するタイミングでもあった。忘れたいようで忘れたくない思い出でもあるのだ。そして、過去はもう変えられない。全ては冒頭の時点ですでに手遅れなのであり、それが鑑賞後に切なさを残す。

ワインをはじめ、酒は樽で長い期間熟成するほど多くの水分・アルコール分が蒸発によって失われる(「天使の分け前」と呼ぶ)。しかしその分、香りが良くなると言われ、また価値も高くなっていく。人生においても失うものは多いが、逆説的に、その方が豊かであるのかもしれない。ちなみに、ワインに用いられる葡萄は生食用のものより酸味が強い。そう、ある意味、本作も「酸っぱい葡萄」の話なのだ。

普通のスパイものとは一線を画す、人生の寓話。ヘンリーの飲む、血のような赤ワインのごとき渋い味わいの作品だ。女優の方が俳優より8歳上のラブストーリーというのも珍しいが、「最愛の人」という意味の名を持つタンディ・ニュートンがキャスティングされているのがまた憎い。劇中ウェイトレスがワインをこぼすように、本作もあなたの心に消えないシミを残すだろう。タイトルは直接内容と関係ないが――、ワインと言えばソムリエナイフ。あなたの“ワイン”をより深く味わうために、この“ナイフ”で栓を開けてはいかが?

【ストーリー】
CIAの諜報員で元恋人同士の2人(クリス・パインとタンディ・ニュートン)は、救出作戦の失敗から8年後に再会。世界規模のスパイ行為、道徳的ジレンマ、致命的裏切りといった刺激的な話が進むにつれ、2人の仕事と恋愛感情との境界線は曖昧になっていく。

【キャスト】
クリス・パイン, タンディ・ニュートン, ローレンス・フィッシュバーン

【スタッフ】
監督:ヤヌス・メッツ

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