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【今週公開の注目作】『ルックバック』 人はなぜ、痛みを背負ってなお描き続けるのか。

【今週公開の注目作】

『ルックバック』
9月11日(金)より、全国ロードショー
公式HP:https://k2pic.com/film/lb

表現者が「ものづくり」そのものを題材にして作品を撮るとき、そこには往々にして作り手自身の血肉や業が滲み出る。映画監督が映画を撮る物語なら『ニュー・シネマ・パラダイス』やフェリーニの『8 1/2』、スピルバーグの『フェイブルマンズ』などがすぐに思い浮かぶ。では、「漫画家を描いた名作」となるとどうだろう。『バクマン。』のような熱い商業誌サバイバルや、あるいは不朽の金字塔『まんが道』か。いずれにせよ、ペン一本で真っ白な原稿用紙に己の世界を叩きつける漫画制作という営みは、映画のスクリーンにおいても常に観客の胸を激しく揺さぶってきた。

そして今週、2020年代屈指の熱量で世界中を震撼させた藤本タツキの原作が、日本を代表する映画作家・是枝裕和の手によって実写映画としてスクリーンに姿を現す。2024年の押山清高監督による劇場アニメ版が残した鮮烈な記憶もまだ新しいなか、「まさかあの傑作を是枝裕和が撮るのか」と製作発表時に驚きを覚えた映画ファンも少なくないはずだ。だが、完成した本作を観れば、なぜ是枝監督が「やらないわけにはいかない」とメガホンを取ったのか、その必然性に誰もが打ちのめされることになるだろう。

物語は極めてミニマルだ。学年新聞で4コマ漫画を描き、周囲のおだてに乗って天狗になっていた小学生の藤野。だが、不登校の同級生・京本の圧倒的な画力を目の当たりにしたことで、彼女の日常は一変する。打ちのめされ、プライドを砕かれ、それでも机にかじりついて猛烈にペンを走らせる藤野。やがて卒業式の日、偶然から言葉を交わしたふたりは、漫画への衝動だけで強く結びつき、青春のすべてを共闘するように机を並べていく。しかし、そんなかけがえのない時間に、残酷すぎる転機が訪れる――。

是枝監督といえば、子どもたちの嘘のない表情や佇まいをすくい取る演出力で世界的な評価を確立してきた。『誰も知らない』や『奇跡』、『怪物』で見せてきたその卓越した眼差しは、本作でも遺憾なく発揮されている。藤野役の出口夏希が見せる負けん気の強さと脆さ、そして京本役の蒔田彩珠が全身から滲ませる純真さと繊細な感情の揺れ。全編フィルムで捉えられた四季の移ろいや、原作者の故郷である秋田の澄んだ空気感のなかで、ふたりが並んで机に向かう姿、あのあまりにも有名な“雨の中を全身で踊るように駆けていくシーン”が実写の肉体と体温を得て立ち上がった瞬間、映画を観る者の感情は一気に決壊する。

アニメ版が「動く絵」としての驚異的な躍動感で原作の精神を具現化したのだとすれば、是枝版の実写映画が捉えるのは「生身の人間が、紙の上に線を刻みつけることの生々しい重み」だ。ペン先が原稿用紙を引っ掻く乾いた音、インクの匂い、重ねられたスケッチブックの山。そして、どれほど傷つき、理不尽な喪失に打ちひしがれようとも、人はなぜ再び机に向かい、ペンを握ってしまうのか。劇中で背中越しに語られるその問いかけは、漫画を描く少女たちの枠を超え、映画を撮り続ける是枝監督自身の祈りや、何かを創り出そうと抗うすべての人々の魂へとダイレクトに突き刺さる。劇場を出たあと、思わず自分の歩んできた道や、かつて机に向かっていたあの日の背中を振り返らずにはいられない、痛切で美しい傑作だ。

<ストーリー>
自信家な小学4年生の藤野は、学年新聞に4コマ漫画を連載し、クラスメートたちから絶賛されていた。しかしある日、学年新聞に掲載された不登校の同級生・京本の漫画を目にし、その圧倒的な画力に打ちのめされる。それ以来、藤野は絵が上手くなりたい一心で漫画を描き続けるが、その差は埋まらず、一度は漫画を諦めてしまう。ところが卒業式の日、京本の家へ卒業証書を届けに行った藤野は、京本が自分の漫画のファンだったことを知る。漫画へのひたむきな思いで結ばれたふたりは、一緒に漫画を描き始める。かけがえのない時間を積み重ねていく藤野と京本。しかし、そんなふたりの日々を大きく揺るがす出来事が訪れる――。

<作品情報>
監督・脚本・編集:是枝裕和
原作:藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
音楽:坂東祐大
シャークキック・ギター(友情演奏):米津玄師
出演:出口夏希/蒔田彩珠/七瀬ふうり/岡田六花 ほか
2026年|日本映画|99分|G
配給:K2 Pictures
©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社

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